そして僕は地獄に堕ちる
この話は所々危険なネタがあります
BLってなに?おいしいの?という方や
意味がわかる上で嫌悪される方は閲覧に注意してください
・・・
・・
・
ではでは…
―――――――――――
―――――――――――
俺、棗恭介は見せたいものがあるから部屋にいてくれとの連絡を受け、手持ち無沙汰で理樹を待っていた。
「お待たせ、恭介」
と、走ってきたらしい理樹は少し息が乱れていた。別に走らなくてもいいのにな、まったく可愛い奴だ。って…
「おう…お!?」
お、おかしいだろ…
「お?」
当然心の声が聞こえる訳がなく、理樹はこれまた可愛らしく首を傾げた。
「お前なんで女装してるんだぁっ!?」
心からのツッコミ。似合っている。それは確かなことだ。実際道行くあいつにこいつにそいつはおろか、女性まで振り返りそうなくらいに可愛くなっている。だが、理樹には女装癖なんて…
「ぶるまを穿いて男の服を着るのってやっぱおかしいしさ」
「なぬ!?ぶるまだと!?って何故ぶるま!?」
今日の理樹はどうしたんだ?何故ぶるまなんて穿いてるんだ!?
「来ヶ谷さん達に穿かされたんだけど、意外に穿き心地がよくてさ」
「なんで笑ってんだ!?しかも照れ臭そうに!」
やべぇ…理樹がわからねぇよ俺。どうすればいいかもわからねぇ。
「これならスカートめくりされても平気だね」
と、ふわりとスカートを翻す理樹。なんでこんなに様になってんだろうなこいつは。って…
「待て待て!今の世の中、俺達の世代でスカートめくりなんてするかよ!それとスカートをパタパタさせるんじゃないっ!見えるだろうが!」
暑いわけでもないだろうにスカートを持ってパタパタさせる理樹。ちらほらとぶるまが…くっ!
「見せてるんだよ恭介。それにそんなこと言って…恭介だって昔はスカートめくりしてたじゃない。聖域を打ち破る者[サンクチュアリブレイカー]として」
「名乗ってない!そんななんか痛そうな称号は名乗ってないぞ!!あとそもそもめくってないからな!」
あれの全盛期は親の世代だぞ。
「恥ずかしがらなくていいんだよ恭介。体は萌えで出来ている。血潮はロリで心はショタって言ってたじゃないか」
「謝れ!俺よりも原作に謝れっ!!」
出来れば俺にも謝ってほしいが、それ以上に危ないぞこのネタは!
「幾千の店を巡って不敗。ただ一度の食わず嫌いもなく、ただ一度の買い逃しもなし。故に我が生涯にリアルは不要ず。この体は溢れ出る萌えで出来ていた!」
「待て待て待て!とんでもないことを言うな!」
リアルはいらないとかどんだけ俺は終わっちゃってるんだよっ!
「恭介の固有結界である虚構世界[駆け巡る妄想]が発動!宇宙の法則が」
「乱れねぇよっ!どこのエクスデ○が混ざっちゃったんだよ!って言うか妙なルビを打つな!なんだよ駆け巡る妄想って!」
「いいですとも!」
「なにがだよ!今の世代にゃゴルベ○ザとフース○ヤのやり取りなんかわかんねぇよっ!」
詳しくはF○4と○F5を調べてくれ。恭介お兄ちゃんとの約束だ。
「やせいの まさとが とびだしてきた!」
「恐ぇよ!」
「なかまにしてほしそうにこちらをみている」
「…いいえ」
「まさとをなかまにしないなんてとんでもない!」
「ポケモ○から入ってドラク○かよっ!?しかもそれ貴重品捨てようとした時のメッセージだろ!」
ネタがはちゃめちゃだぞ理樹…
「聖なる獣」
「余がブラックロッジの大導師マスタ○テリオンであるってこらっ!」
ついついノっちまったじゃねぇか!
「ターゲットロックオン」
「だからって人の台詞を言うな!」
「イヤッホーゥ!!直枝最高ーッ!!」
「そこは国崎か岡崎だろうがっ!!」
「こうなったら…エターナルフォースブリザードを使わざるを得ないっ」
「目を覚ませっ!お前にそんな力は無いしそんな状況にもならねぇ!」
中二病と龍と虎の拳が混ざってやがる…
「ちなみに僕の能力は奇跡を起こす程度の能力」
「もはや程度ってもんじゃねぇだろっ!?しかも東○ネタかよっ!!」
「ふふ…僕はあいつと違ってあともう一回変身出来るんだよ?」
「お前の戦闘力どんだけなんだよっ!!」
ってかフリー○様じゃなくてク○ラ様かっ!
「さぁ、僕の必殺技を受けてよ恭介!ボドドドゥドォー!![萌え殺す魔性の男の娘]」
「おかしいだろその読ませ方はっ!!」
「そしてもう一つ、キリエ・エレイソン[そのボケに憐れみを]」
「お前のツッコミは必殺技だったんだな…」
怖い黒い神父が剣投げてきたって俺は知らないからな。
「さすが恭介だね。ここまで突っ込んできてくれるなんて」
「誰のせいだっ!」
正直疲れたぜ…
俺がツッコミ過ぎて乱れた呼吸を整えていると
「そんな恭介になら…」
「あ?」
理樹が今までになく真剣な面持ちで俺のことを見つめてきた。
「ううん、そんな恭介だから貰ってほしいものがあるんだ」
うっすらと上気した頬に潤む目…
「な、なんだ?」
うすら寒いものと、同時に抗いがたい色気を感じてしまう。
「僕の…ボクのとっても大事なモノを」
「ぐ…落ち着け俺…相手は理樹だ…男だぞ」
やべぇ、一瞬クラッときたぜ。
「関係ないよっ!男とか女とかそんなのは些細な問題だよっ!!偉い人にはそれがわからないんだよ!」
「いや、実際問題二次元で見かけるシチュは現実では問題多いからな?」
薔薇、百合以外に義理の兄妹とかもな。
「さぁ恭介、もしも(21)じゃないなら…ほら」
「それ、俺に違う属性付くだけだろ。しかも絶対に男友達無くすような…って何故自分から制服をはだけさせるっ!?と言うかなんで男のお前からこんな色気を感じないといけないんだっ!?」
正直…たまりません。
「恭介…ボクにここまでさせて逃げちゃうような…ヘタレじゃないよね?」
「だぁぁぁぁっ!?赤ら顔で耳元で囁くなぁっ!!どうしたんだよ理樹!」
「どうしたって…ボクは自分に素直になっただけ。恭介が手を差し延べてくれたあの日からボクはずっと恭介を想って生きてきたんだ」
「り、理樹…」
理樹は俺の手を握り、俺の顔をその曇りの無い瞳で映す。
「本当は秘めたままでいようと思ってた」
「俺としても秘めたままでいてほしかった…」
はっきり言って、こんな馬鹿なことでも言わなきゃ理樹の醸す空気と色気にどうにかなってしまいそうだった。
「ボクだっておかしいと思った。だから女子メンバーと仲良くしたりして恭介への想いを断ち切ろうとしたんだ。だけどダメだった。ボクの心はとっくに恭介、あなたに奪われていたんだ」
「…」
「ずっと愛してくれなんて言わない。今だけ…この一度だけでいいから…ボクをあなたのモノにしてください」
「理樹…お前…」
理樹は目を閉じ顎を軽く突き出した。その顔はキスを待ち侘びる恋する乙女のそれであり、俺の唇は吸い込まれるようにその可憐な、男とは思えない唇へと…
「って危ねぇっ!?勢いでキスしそうになってた!!」
恐るべし、キス顔の魔力@理樹…だな。
「ちっ」
「舌打ち!?」
「こうなったら…恭介はボクのこと嫌い?」
「泣き落としかっ?その手には…ぐっ、その顔は反則だぞ…」
泣き落としなんかと甘く見てたぜ…やべぇよ、この顔は。だが…
「ボクは恭介のこと…好きだよ」
「俺だって好きさ。だがお前の言う好きと俺の言う好きは別物だ。俺はお前の想いには応えることは出来ない」
別に理樹を気持ち悪いなんて俺は思わない。そこまで想ってくれる相手がいるなんて光栄だとも思う。だがそれでも俺には越えられない一線があるんだ。
「…」
「悪いな。じゃあな」
俺は理樹の泣きそうな、芝居じゃなくマジで泣きそうな顔を振り切るべく背を向けた。
「待って!…ねぇ恭介」
「…なんだ?」
引き止めてくるのは予想していたが、なんだ、その余裕そうな声は…
「…ボク知ってるんだ。鈴が僕のことをどう思ってるか」
「っ!?お前…」
俺は思わず振り向いた。そこにはどこか危うい笑みを浮かべた、弟のように思っていた親友。
「それに恭介、好きな人出来たでしょ」
「…」
俺は無言で理樹に詰め寄り胸ぐらを本気の力で掴み上げた。
「ぐっ…ふふ、怖い顔。かっこよくて、それでいて色っぽくてゾクゾクするよ」
苦しいはずなのにどこか恍惚とした表情をしてみせる理樹。
…ダメだ、飲まれたらダメだ!
俺は恐怖をごまかし、押し殺した声で尋ねた。
「…何が望みだ」
「言った通りだよ。一度だけでいいから、ボクを恭介のモノにして」
・・・・・・
「…わかった。だが」
「わかってるよ。鈴にもあの人にも近づかない」
「…いいだろう。だがもしあいつらに何かしたらその時は」
俺は大事な…大好きだった幼馴染みへと初めて殺気を放った。
「その顔をした恭介に殺されるなら本望だけど…恭介が犯罪者になるのは嫌だからね。約束するよ」
「…」
もう言葉なんか必要なかった。俺はそのまま理樹を押し倒し、望み通りに唇を奪おうと…
「恭介…キスの前に愛してるくらい言ってよ」
・・・・・・
「…地獄に堕ちろ」
「あはは…最高の告白だよ恭介。一緒に地獄に堕ちよう?恭介が一緒なら怖くないよ…ん」
「…」
それ以上聞いていたくなかった。だから俺は理樹の唇を自分のそれで塞いだ。
理樹はそれだけで満足せずに、どこで覚えたのか舌まで入れてきた。気の済むようにしてやろうと俺はそれに応えた。
…どれくらいしていただろうか。部屋には舌が絡み合う粘着質な音と理樹の鼻から漏れる幸せそうな吐息だけが響いた。
「えへへ…さぁ、恭介、何をしてもいいよ。だってボクは恭介のモノなんだから」
唇を離し、本当に幸せそうな顔で理樹はその手で俺の頬を撫でる。
「理樹…」
「恭介…」
俺は理樹の着ていた服に手をかけ、それを力任せに…
―――
「待て俺ぇっ!?…はぁっ、はぁっ…あ?ゆ、夢…か」
飛び起きた俺は今のが夢とわかった安堵で再びベッドに倒れ込んだ。
「なんつう夢だよ…最後なんか西園が喜びそ…アレのせいか?」
最初の女装理樹inぶるまからオタクな馬鹿理樹までは許容するが…最後のアレは…
『そしてボクは地獄に堕ちる』
「これのせいだよな…」
枕元にある本。これは西園から渡された本だ。今度の新刊らしいのだが、やけに力が入った仕上がりになっている。
例えば挿絵だが、やけにかっこよく描かれた俺をモチーフにしたキャラクターと、理樹をモチーフにした、こちらはあまり誇張無く中性的なキャラクター。ちなみに挿絵担当は寮長を二木に譲って暇になったとかほざいていたあいつだ。また上手いのが腹立たしい。
文章は西園だが、来ヶ谷をはじめ何人か協力しているらしく、ノンフィクションかと疑いたくなるほどにキャラクター描写が緻密だった。俺の見た夢の前半よりもよほどらしい仕上がりになっている。
あと何故か煽り文まで付いていた。
『呑み込ませて、君のエクスカリバー』
どこかから怒られたりしないか不安になるぜ。
「…あー、ダメだ。寝られねぇ」
あまりに衝撃的だった夢のせいで眠気が吹っ飛んだらしい。
「うぁ…めっちゃ寝汗かいてやがる」
あまりに(中略)寝汗をかいていた。こりゃシャワー浴びた方がいいな。
「よっと…」
ベッドから下りた俺は着替えとタオルを用意しながらふと思い至る。
「そういや、今日は理樹と遊びに行くんだっけ」
もしも…あの本と、理樹と出かけることが嬉しくてあんな夢を見たのだとしたら
「どんだけ理樹が好きなんだよ、俺は」
苦笑が漏れる。そう苦笑だ。西園達が想像し創造するような関係ではもちろん無い。無いが、俺と理樹の間には深い絆がある。
…あんな夢を見たことで多少心苦しく思わないでもないが、そこは理樹なら許してくれるよな?
そして、やることもなくなった俺は早めに待ち合わせ場所へ向かった。
「…早過ぎたな」
たまに逆ナンしてくる同年代やお姉さんをかわしながら俺は理樹を待つ。
「…なんだありゃ?」
そうしていると、凄い人だかりが近づいてきた。そう人だかりがだ。
ゴミのようだ!と叫びたくなるなこれは。
「んー」
しかしこの勢いはやばそうだな、なんかイベントでもあったか?
ザザッ!
考えていると十戒の如く人だかりが割れた。
「お待たせ、恭介」
「おう…お?」
待て待て、俺はまだ夢の中にいるのか?
「お?」
その人だかりの海を割り現れたのは
「お前なんで――!!」
BLってなに?おいしいの?という方や
意味がわかる上で嫌悪される方は閲覧に注意してください
・・・
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ではでは…
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俺、棗恭介は見せたいものがあるから部屋にいてくれとの連絡を受け、手持ち無沙汰で理樹を待っていた。
「お待たせ、恭介」
と、走ってきたらしい理樹は少し息が乱れていた。別に走らなくてもいいのにな、まったく可愛い奴だ。って…
「おう…お!?」
お、おかしいだろ…
「お?」
当然心の声が聞こえる訳がなく、理樹はこれまた可愛らしく首を傾げた。
「お前なんで女装してるんだぁっ!?」
心からのツッコミ。似合っている。それは確かなことだ。実際道行くあいつにこいつにそいつはおろか、女性まで振り返りそうなくらいに可愛くなっている。だが、理樹には女装癖なんて…
「ぶるまを穿いて男の服を着るのってやっぱおかしいしさ」
「なぬ!?ぶるまだと!?って何故ぶるま!?」
今日の理樹はどうしたんだ?何故ぶるまなんて穿いてるんだ!?
「来ヶ谷さん達に穿かされたんだけど、意外に穿き心地がよくてさ」
「なんで笑ってんだ!?しかも照れ臭そうに!」
やべぇ…理樹がわからねぇよ俺。どうすればいいかもわからねぇ。
「これならスカートめくりされても平気だね」
と、ふわりとスカートを翻す理樹。なんでこんなに様になってんだろうなこいつは。って…
「待て待て!今の世の中、俺達の世代でスカートめくりなんてするかよ!それとスカートをパタパタさせるんじゃないっ!見えるだろうが!」
暑いわけでもないだろうにスカートを持ってパタパタさせる理樹。ちらほらとぶるまが…くっ!
「見せてるんだよ恭介。それにそんなこと言って…恭介だって昔はスカートめくりしてたじゃない。聖域を打ち破る者[サンクチュアリブレイカー]として」
「名乗ってない!そんななんか痛そうな称号は名乗ってないぞ!!あとそもそもめくってないからな!」
あれの全盛期は親の世代だぞ。
「恥ずかしがらなくていいんだよ恭介。体は萌えで出来ている。血潮はロリで心はショタって言ってたじゃないか」
「謝れ!俺よりも原作に謝れっ!!」
出来れば俺にも謝ってほしいが、それ以上に危ないぞこのネタは!
「幾千の店を巡って不敗。ただ一度の食わず嫌いもなく、ただ一度の買い逃しもなし。故に我が生涯にリアルは不要ず。この体は溢れ出る萌えで出来ていた!」
「待て待て待て!とんでもないことを言うな!」
リアルはいらないとかどんだけ俺は終わっちゃってるんだよっ!
「恭介の固有結界である虚構世界[駆け巡る妄想]が発動!宇宙の法則が」
「乱れねぇよっ!どこのエクスデ○が混ざっちゃったんだよ!って言うか妙なルビを打つな!なんだよ駆け巡る妄想って!」
「いいですとも!」
「なにがだよ!今の世代にゃゴルベ○ザとフース○ヤのやり取りなんかわかんねぇよっ!」
詳しくはF○4と○F5を調べてくれ。恭介お兄ちゃんとの約束だ。
「やせいの まさとが とびだしてきた!」
「恐ぇよ!」
「なかまにしてほしそうにこちらをみている」
「…いいえ」
「まさとをなかまにしないなんてとんでもない!」
「ポケモ○から入ってドラク○かよっ!?しかもそれ貴重品捨てようとした時のメッセージだろ!」
ネタがはちゃめちゃだぞ理樹…
「聖なる獣」
「余がブラックロッジの大導師マスタ○テリオンであるってこらっ!」
ついついノっちまったじゃねぇか!
「ターゲットロックオン」
「だからって人の台詞を言うな!」
「イヤッホーゥ!!直枝最高ーッ!!」
「そこは国崎か岡崎だろうがっ!!」
「こうなったら…エターナルフォースブリザードを使わざるを得ないっ」
「目を覚ませっ!お前にそんな力は無いしそんな状況にもならねぇ!」
中二病と龍と虎の拳が混ざってやがる…
「ちなみに僕の能力は奇跡を起こす程度の能力」
「もはや程度ってもんじゃねぇだろっ!?しかも東○ネタかよっ!!」
「ふふ…僕はあいつと違ってあともう一回変身出来るんだよ?」
「お前の戦闘力どんだけなんだよっ!!」
ってかフリー○様じゃなくてク○ラ様かっ!
「さぁ、僕の必殺技を受けてよ恭介!ボドドドゥドォー!![萌え殺す魔性の男の娘]」
「おかしいだろその読ませ方はっ!!」
「そしてもう一つ、キリエ・エレイソン[そのボケに憐れみを]」
「お前のツッコミは必殺技だったんだな…」
怖い黒い神父が剣投げてきたって俺は知らないからな。
「さすが恭介だね。ここまで突っ込んできてくれるなんて」
「誰のせいだっ!」
正直疲れたぜ…
俺がツッコミ過ぎて乱れた呼吸を整えていると
「そんな恭介になら…」
「あ?」
理樹が今までになく真剣な面持ちで俺のことを見つめてきた。
「ううん、そんな恭介だから貰ってほしいものがあるんだ」
うっすらと上気した頬に潤む目…
「な、なんだ?」
うすら寒いものと、同時に抗いがたい色気を感じてしまう。
「僕の…ボクのとっても大事なモノを」
「ぐ…落ち着け俺…相手は理樹だ…男だぞ」
やべぇ、一瞬クラッときたぜ。
「関係ないよっ!男とか女とかそんなのは些細な問題だよっ!!偉い人にはそれがわからないんだよ!」
「いや、実際問題二次元で見かけるシチュは現実では問題多いからな?」
薔薇、百合以外に義理の兄妹とかもな。
「さぁ恭介、もしも(21)じゃないなら…ほら」
「それ、俺に違う属性付くだけだろ。しかも絶対に男友達無くすような…って何故自分から制服をはだけさせるっ!?と言うかなんで男のお前からこんな色気を感じないといけないんだっ!?」
正直…たまりません。
「恭介…ボクにここまでさせて逃げちゃうような…ヘタレじゃないよね?」
「だぁぁぁぁっ!?赤ら顔で耳元で囁くなぁっ!!どうしたんだよ理樹!」
「どうしたって…ボクは自分に素直になっただけ。恭介が手を差し延べてくれたあの日からボクはずっと恭介を想って生きてきたんだ」
「り、理樹…」
理樹は俺の手を握り、俺の顔をその曇りの無い瞳で映す。
「本当は秘めたままでいようと思ってた」
「俺としても秘めたままでいてほしかった…」
はっきり言って、こんな馬鹿なことでも言わなきゃ理樹の醸す空気と色気にどうにかなってしまいそうだった。
「ボクだっておかしいと思った。だから女子メンバーと仲良くしたりして恭介への想いを断ち切ろうとしたんだ。だけどダメだった。ボクの心はとっくに恭介、あなたに奪われていたんだ」
「…」
「ずっと愛してくれなんて言わない。今だけ…この一度だけでいいから…ボクをあなたのモノにしてください」
「理樹…お前…」
理樹は目を閉じ顎を軽く突き出した。その顔はキスを待ち侘びる恋する乙女のそれであり、俺の唇は吸い込まれるようにその可憐な、男とは思えない唇へと…
「って危ねぇっ!?勢いでキスしそうになってた!!」
恐るべし、キス顔の魔力@理樹…だな。
「ちっ」
「舌打ち!?」
「こうなったら…恭介はボクのこと嫌い?」
「泣き落としかっ?その手には…ぐっ、その顔は反則だぞ…」
泣き落としなんかと甘く見てたぜ…やべぇよ、この顔は。だが…
「ボクは恭介のこと…好きだよ」
「俺だって好きさ。だがお前の言う好きと俺の言う好きは別物だ。俺はお前の想いには応えることは出来ない」
別に理樹を気持ち悪いなんて俺は思わない。そこまで想ってくれる相手がいるなんて光栄だとも思う。だがそれでも俺には越えられない一線があるんだ。
「…」
「悪いな。じゃあな」
俺は理樹の泣きそうな、芝居じゃなくマジで泣きそうな顔を振り切るべく背を向けた。
「待って!…ねぇ恭介」
「…なんだ?」
引き止めてくるのは予想していたが、なんだ、その余裕そうな声は…
「…ボク知ってるんだ。鈴が僕のことをどう思ってるか」
「っ!?お前…」
俺は思わず振り向いた。そこにはどこか危うい笑みを浮かべた、弟のように思っていた親友。
「それに恭介、好きな人出来たでしょ」
「…」
俺は無言で理樹に詰め寄り胸ぐらを本気の力で掴み上げた。
「ぐっ…ふふ、怖い顔。かっこよくて、それでいて色っぽくてゾクゾクするよ」
苦しいはずなのにどこか恍惚とした表情をしてみせる理樹。
…ダメだ、飲まれたらダメだ!
俺は恐怖をごまかし、押し殺した声で尋ねた。
「…何が望みだ」
「言った通りだよ。一度だけでいいから、ボクを恭介のモノにして」
・・・・・・
「…わかった。だが」
「わかってるよ。鈴にもあの人にも近づかない」
「…いいだろう。だがもしあいつらに何かしたらその時は」
俺は大事な…大好きだった幼馴染みへと初めて殺気を放った。
「その顔をした恭介に殺されるなら本望だけど…恭介が犯罪者になるのは嫌だからね。約束するよ」
「…」
もう言葉なんか必要なかった。俺はそのまま理樹を押し倒し、望み通りに唇を奪おうと…
「恭介…キスの前に愛してるくらい言ってよ」
・・・・・・
「…地獄に堕ちろ」
「あはは…最高の告白だよ恭介。一緒に地獄に堕ちよう?恭介が一緒なら怖くないよ…ん」
「…」
それ以上聞いていたくなかった。だから俺は理樹の唇を自分のそれで塞いだ。
理樹はそれだけで満足せずに、どこで覚えたのか舌まで入れてきた。気の済むようにしてやろうと俺はそれに応えた。
…どれくらいしていただろうか。部屋には舌が絡み合う粘着質な音と理樹の鼻から漏れる幸せそうな吐息だけが響いた。
「えへへ…さぁ、恭介、何をしてもいいよ。だってボクは恭介のモノなんだから」
唇を離し、本当に幸せそうな顔で理樹はその手で俺の頬を撫でる。
「理樹…」
「恭介…」
俺は理樹の着ていた服に手をかけ、それを力任せに…
―――
「待て俺ぇっ!?…はぁっ、はぁっ…あ?ゆ、夢…か」
飛び起きた俺は今のが夢とわかった安堵で再びベッドに倒れ込んだ。
「なんつう夢だよ…最後なんか西園が喜びそ…アレのせいか?」
最初の女装理樹inぶるまからオタクな馬鹿理樹までは許容するが…最後のアレは…
『そしてボクは地獄に堕ちる』
「これのせいだよな…」
枕元にある本。これは西園から渡された本だ。今度の新刊らしいのだが、やけに力が入った仕上がりになっている。
例えば挿絵だが、やけにかっこよく描かれた俺をモチーフにしたキャラクターと、理樹をモチーフにした、こちらはあまり誇張無く中性的なキャラクター。ちなみに挿絵担当は寮長を二木に譲って暇になったとかほざいていたあいつだ。また上手いのが腹立たしい。
文章は西園だが、来ヶ谷をはじめ何人か協力しているらしく、ノンフィクションかと疑いたくなるほどにキャラクター描写が緻密だった。俺の見た夢の前半よりもよほどらしい仕上がりになっている。
あと何故か煽り文まで付いていた。
『呑み込ませて、君のエクスカリバー』
どこかから怒られたりしないか不安になるぜ。
「…あー、ダメだ。寝られねぇ」
あまりに衝撃的だった夢のせいで眠気が吹っ飛んだらしい。
「うぁ…めっちゃ寝汗かいてやがる」
あまりに(中略)寝汗をかいていた。こりゃシャワー浴びた方がいいな。
「よっと…」
ベッドから下りた俺は着替えとタオルを用意しながらふと思い至る。
「そういや、今日は理樹と遊びに行くんだっけ」
もしも…あの本と、理樹と出かけることが嬉しくてあんな夢を見たのだとしたら
「どんだけ理樹が好きなんだよ、俺は」
苦笑が漏れる。そう苦笑だ。西園達が想像し創造するような関係ではもちろん無い。無いが、俺と理樹の間には深い絆がある。
…あんな夢を見たことで多少心苦しく思わないでもないが、そこは理樹なら許してくれるよな?
そして、やることもなくなった俺は早めに待ち合わせ場所へ向かった。
「…早過ぎたな」
たまに逆ナンしてくる同年代やお姉さんをかわしながら俺は理樹を待つ。
「…なんだありゃ?」
そうしていると、凄い人だかりが近づいてきた。そう人だかりがだ。
ゴミのようだ!と叫びたくなるなこれは。
「んー」
しかしこの勢いはやばそうだな、なんかイベントでもあったか?
ザザッ!
考えていると十戒の如く人だかりが割れた。
「お待たせ、恭介」
「おう…お?」
待て待て、俺はまだ夢の中にいるのか?
「お?」
その人だかりの海を割り現れたのは
「お前なんで――!!」
09/10/15 18:34更新 / ナハト