楽しみ方は千差万別〜無気力編〜
スイ:なーみをちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷかきわけてー
流れるプールにて、ピニールのシャチに乗りぷかぷかと流れる女…その名前を
ナハト:すーいすーいすーい
スイ:呼んだ?
ナハト:呼んでない
合いの手を入れるのは黒い海パン姿のナハト。彼は浮輪に捕まっている。
スイ:完璧なんてなーい
ナハト:すうぃすうぃ
スイ:呼んだよね?
ナハト:呼んでない
取り敢えず、この二人はさっきからこんな調子である。
スイ:西の瓜と書いて?
ナハト:スイカ
スイ:はい、あたしがスイさんです
ナハト:知ってます
スイが付くならなんでもいいらしい。
スイ:JR東日本で使えるカードは?
ナハト:パスモ
スイ:…
ナハト:…
まさかのナハトの答えに時が凍り付く。
そして…
スイ:空気読め。そこはスイカって答えてよ
ナハト:飽きたんだよ…
なにもせず、ただ流れ続けてこの調子…それは飽きもするだろう。
笑夢:何やってるんですか、お二人ともw
通り掛かり、二人を眺めていた笑夢がツッコミを入れた。
ナハト:いや…別に?
スイ:ねぇ?
笑夢:なんなんですかw
二人はあまりにテンションが低い。
ナハト:ゆらりゆれる…それだけさ。向こうは騒がしいしなー
向こう…仲間達の騒がしい声が聞こえる場所であった。
スイ:そうそう。笑夢さんは参加しないの?アレ
笑夢:私にはゆりちゃんがいますからw
笑夢の行動基準は相変わらずゆりが一番である。
ナハト:…ん?
スイ:ゆりちゃんならさっきカズくんとウォータースライダー行ったよ?
笑夢:なんですって!?そ、それは本当ですか!?
驚愕する笑夢。
ナハト(カズ):ゆ、ゆり…良かったら…俺と…その…
スイ(ゆり):カズくん!あの滑り台行こぅよ♪
突然始まった小芝居。主演は演劇でならしたスイとナハト。
顔を赤くして、恥ずかしそうにゆりを誘おうとするカズを演じるナハトと、いつものようにカズを誘うゆりのように無邪気な笑みを浮かべるスイ。
ナハト:とか言ってたぞ
スイ:誘おうとして誘われるなんて情けないねー
しかし、小芝居が終わると二人はまた無気力に戻った。
笑夢:…
スイ:笑夢さん?
笑夢:ふ、ふふふ…良い度胸ですよカズさん!もはや情け無用の容赦無用!いざーっ!!
誤解がないように言っておくと、笑夢はカズを嫌っているわけではない。
ゆりを巡るライバルとして認めているのだ。
そんなわけで、笑夢は邪魔をする為にウォータースライダーへ向けて走り出した。
スイ:あーあ
ナハト:…カズ、不憫な
スイ:誘われることすら悪なんだね。さてさて、あっちはどうなったかな?
―
二人が流される前。
ヒメ:はぁ♪スク水ショーちゃんを侍らせてトロピカルジュースを飲むなんてたまんないね
いつ用意したのか、ヒメはビーチチェアに横になり、グラスを持ち、横には今だにスク水姿のショータを立たせていた。
ショータ:…泳ぎに来たんじゃなかったの?暑いから泳ぎたいんだけど
ヒメのわがままに付き合うショータはプールを恨めしそうに眺めている。
ヒメ:だって、肌弱いからさ私。直射日光なんてダメダメさ!
そんなヒメの笑顔は太陽のように輝いていた。
アキ:ショタさーん、オイル塗ってくださーい
その時、横手からショータを呼ぶ声がした。
アキである。
ショータ:はーいってそれはダメでしょ!?
了承しかけたショータだったが、すぐに思い止まった。
アキ:ダメですか?
ヒメ:だめー。ショーちゃんはボクのだからね。ボディタッチはNG
見せ付けるようにショータの腕を掴むヒメ。
アキ:む…ナニ…いえ、どこまでならアリですか?
ショータ:君はいったい何を望んでるの!?
まったくだ。
アキ:可愛い子満載のハーレム…こほん…可愛い子オンリーのハーレムを
ショータ:今なんで言い直したのさ!?むしろ繰り返しただけだよねっ!
大事な事だからである。
アキ:…今がチャンスなんですよ。相坂時流がイチャイチャしている今が
それではご覧いただこう。
これがその光景である。
時流:どう?最初用意したものとは変わっちゃったけど、それでも榛希に見せる為に用意したのよ?
ポーズを取る時流。
彼女のような美女にそんなことを言われたら有頂天になるだろう…普通の男ならば。
榛希:…
だが彼は、榛希は難しい顔で、不躾なまでに時流を見る。
時流:なによ?言葉も出ないのかしら?
榛希:似合ってる…似合ってるが、次はもっと地味なものにした方がいい。露出も控えろ
時流:どういうことよ?
榛希:お前のそういう姿を他の奴に見られたくない
ふいと、顔を背けながら言う榛希。照れているのだろうか?
時流:…ふーん
不機嫌そうな声で、しかし嬉しそうな表情で時流は榛希に腕を絡める。
榛希:…時流、今度は二人で行こう。海へ
時流:そうね。二人で
あなたにはわかっただろうか?
二人の周辺の温度が高くなっているのが。
ショータ:うわ…なんか凄いなぁ、あの二人
ヒメ:アダルティ〜
アキ:というわけで、今なら気兼ねなく楠さんとショタさんを侍らせることが出来るんです!
ショータ:どんな結論なのさ、それ!?
台なしだった。欲望ダダ漏れである。
ヒメ:ふむ…気持ちはわかるよ、アキさん
ショータ:わかるの!?
ヒメ:だけど、二人はうちの使用人だからね…ただでは貸せない
アキ:そうですか
ショータ:(有料なら貸し出されるのか?
なんとなく不安になるショータだった。
ヒメ:勝負しよう。アキさんが勝てばショーちゃんを貸してあげる
アキ:なるほど…いいでしょう。受けます
ヒメ:よく言った!
ショータ:はぁ…もう好きにしたらいいよ
暑くて、もうどうでも良くなったらしい。
そして…
ヒメ:第一回!チキチキ!ショーちゃん争奪…
スイ:ナハトさん、その浮輪の次はこれね
ナハト:…シャチ!?お前これ…買ったのか!?
スイ:うん
ナハト:レンタルでいいだろうが…貸せっ
スイ:しくよろー
浮輪を膨らませ、シャチに取り掛かるナハト。
ゆり:カズくーん、ゆりのもお願〜い
カズ:ゆり、ナハトさんがポンプ使ってるからちょっと待ってて
楠:…直接口でやれよ
ボソッと何か聞こえた。
カズ:え?
楠:なんでもないよ?
たいら:野郎ども!俺達はこれより死地へ向かう!どうだ、楽しみか?
マーシュ:ガンホー!
三原:ガンホー!
たいら:俺のしごきに耐えたお前達は、既に一騎当千のつわものである!
マーシュ:ガンホー!
三原:ガンホー!
たいら:いいか!人に会っては人を斬り、神に会ったらば神を斬れ!俺達の道を阻むもの全てを打ち砕け!
マーシュ:ガンホー!ガンホー!ガンホー!!
三原:ガンホー!ガンホー!ガンホー!!
たいら:行くぞっ!!
何やら熱苦しい三人が何処かへ突撃した。
結果…
ヒメ:誰も聞いてねー!
アキ:まぁいいです。その方が好都合でしょう
笑夢:何がですか?
ヒメ:笑夢さん!?
神出鬼没な笑夢である。
笑夢:何かまた企んでいるんですか?w
またとか言える立場なのだろうか?
ヒメ:ふっふっふ…あとで教えてあげます
笑夢:楽しみにしていますねw
ヒメ:では改めて勝負!
そして、ショータ争奪戦が始まったのだった。
―
そんなこんなで…
ナハト:ふー
スイ:みんな、楽しそうだよねー。というかナハトさん親父くさいよw
ナハト:ほっとけー
スイ:き
ナハト:ホットケーキが食べたいのかー?
スイ:んーにゃ?かき氷の方がいいかなー
ナハト:いいなー
スイ:買いに行くー?
ナハト:行くかー。そろそろニコチンも補給したいしなー
戸籍上は若いはずの二人だが、随分と無気力である。
きっと夏の暑さのせいであろう。
??:おーい!
プールサイドへ上がろうとした二人に声が届く。
ナハト:ん?
??:スイちゃん!ナハトっちー!
スイ:くーちゃん?
ナハト:どうしたっ?
楠である。彼女は小走りで(プールサイドは走らない)近づくと、一息ついて言った。
楠:ふぅ…浮輪かそのシャチ貸して。ボクもぷかぷかゆらゆらしたい
ナハト:ふむ…ならほら、浮輪使えよ
楠:ありがと!
ナハトの使っていた浮輪に飛び込む楠と、入れ代わりに上がるナハト。
スイ:んー?くーちゃん泳げなかったり?
楠:そんなこと…そんなこと…てへっ☆
ごまかした。
ナハト:二人はそのままのんびりするといい。かき氷はいちごでいいか?
スイ:ん
楠:奢りか!?
ナハト:最初の一杯くらいならな。ただし、タバコ吸ってくるから時間をくれ
楠:体に悪いぞタバコ
ナハト:知ってるよー
ひらひらと手を振りながらナハトは歩き出した。
楠:むぅ…
ナハトの立場が気に入らないのか、楠はつまらなそうな顔で唸る。
スイ:心配?病気になったりしないか
楠:別に…いや、うん、心配…かな。友達、だから
スイ:…そっか。くーちゃんは良い子だねー
楠:わわっ!?
スイが楠の頭をくしゃくしゃと撫でる。
スイ:うりうりー
楠:むー…スイちゃんって…スイさんってお姉ちゃんみたいだ…
プールで冷えているはずなのになんだか暖かい、楠はスイの手をそう感じた。
スイ:…スイちゃんでいいよ
楠:スイ…ちゃん
スイ:あたしはね、くーちゃんのお姉ちゃんにはなってあげられないと思うんだよ
姉さん姉さんと慕われるスイだが、普段見せない真面目な顔をしていた。
楠:…
うつむく楠だったが、スイは真っ直ぐ前を見て続ける。
スイ:でもさ、友達にはなれる。違うか。あたし達はもう友達。ね?
最後の最後で笑顔を向けるスイ。
楠:…うん!友達!
スイの言葉に、笑顔に、歳相応の可愛らしい笑顔を浮かべる楠だった。
―
そして、仲良く二人がプールを流れて、15分程経った頃だろうか?
ナハト:待たせた
かき氷を持ってナハトが戻った。
スイ:遅いよー
楠:だからお前はナハトなんだぞー
ナハト:悪かったよ。色々あったんだ
やけに疲れた顔をしているのは、戻ったときに何かあったのだろうか?
楠:言い訳なんて男らしくないぞ
スイ:まったく…これだからダメなんだよ
ナハト:はいはいすみませんでした。それより、かき氷溶けるぞ
スイ:それはいかんね
楠:溶けたかき氷なんて、炭酸の抜けたファ○タみたいなものだよ!しかも薄い!
などと言いながら二人はプールから上がった。
ナハト:フ○ンタ?
スイ:両方無果汁
ナハト:…あぁ!
あれはJAR○に訴えられないのだろうか?
スイ:まぁそれはそれ。ナハトさん、シャチと浮輪よろしく
ナハト:…は?
スイ:くーちゃん、一緒に食べよ
楠:うん!ナハト、かき氷と浮輪交換しろー
言うが早いか、かき氷を奪われたナハトは浮輪とシャチを押し付けられていた。
ナハト:はぁ…やれやれ
苦笑してみせるが、様にならない、なるはずがないのはご愛嬌だろう。
スイ:ん〜!冷たくて、甘くて、ちょい甘酸っぱくて美味しい♪…甘酸っぱい?
楠:ん〜♪あ、本当、なんか甘酸っぱい…ナハト、これ本当にいちご?
記憶にある氷いちごとは違う味がした。
氷いちごは酸っぱくない…はずである。
ナハト:あー…その、な?行った店のメニューに変わってるのがあってな
言いにくそうなナハト。
楠:ナニ食わせた!?
楠は不安になった。
食べ物に関してはチャレンジャーのナハトは、率先して妙な物を食べるとスイから聞いていたのである。
ナハト:『忘れたくても忘れられない、忘れたくない、甘酸っぱい初恋のようないちご味』…だったかな
どこのラー油だ。
楠:これが…初恋の味…
楠は変な所に感銘を受けていた。
スイ:これはこれで美味しいけどさーw
ナハト:本当は普通のにしたかったんだが…
好きで買ったわけではないらしい。
スイ:?
楠:なんかあったの?
ナハト:実は…
そして語られる事実は(ある意味)衝撃的だったのである。
…続く!
10/08/29 22:59更新 / ナハト