ギルドTRAFFIC JAM(仮) プレ・プロローグ
カランカラン…と、バーの扉が開いた。
マスター:いらっしゃい
たいら:いつもの
店の主は入ってきた大柄な客、常連のたいらの注文を受け動き出した。
たいら:疲れたぜ…
マスター:何かあったのかい?
机に突っ伏すたいらにマスターは声をかける。
たいら:王様にな、会ってきたんだよ
マスター:王様に?凄いじゃないか。お待たせ
いつもの…ホットミルクをマスターが静かに差し出す。
たいら:凄いものか…出張した姉貴の代わりに国を守れとさ
マスター:なるほどな。勇者たいら様の誕生だ
たいら:茶化すな
ホットミルクを飲みながら、苦い顔をするたいら。
彼女の姉は生きる伝説として紛争地帯に赴いているのだ。
そんな姉と較べられるのが面白くないのだろう。
マスター:でも、やるんだろ?
たいら:まぁな…はぁ…どっかに仲間になる奴らいないもんかね?
マスター:募集しておいてやるよ
たいら:助かるぜ
…この時、世界は動き出した。
―――
神谷榛希:ふむ…迷っちゃったなぁ…時流さんどこだろ
シーフ神谷榛希は相棒の遊び人相坂時流と共に、とある廃城へ来ていた。
彼は今、ふらふらと後先考えず歩いていたらトラップに引っ掛かり逸れてしまった相坂時流を探していた。
そんな時だった。
??:あなたが、シーフ・オブ・シーフ、神谷榛希ですね?
前方の暗がりから彼を呼ぶ声がした。
神谷榛希:…君は?
??:僕は園葉、アサシンの園葉。名前は覚えてくれなくていいですよ
言い終わるや、殺気を膨らませる園葉。
神谷榛希:…誰からの依頼かは知りませんが、アサシンを差し向けられるほど名前が売れたんですね、私も
飄々と返す榛希だったが、彼は逃げる算段を立てていた。
だが…
園葉:…楠流忍術継承者、園葉
??:同じく、楓
神谷榛希:もう一人…!?
自分が今通った道、誰もいなかったはずの背後からもう一人、退路は塞がれた!
園葉:主の命により…
楓:消えてもらうよ!
―――
一方その頃、相坂時流。
相坂時流:困ったわね、榛希とはぐれちゃったわ
相棒と逸れてしまった時流だったが、遊び人故…それ以上に相棒の榛希を信頼しているので悲壮感なく廃城を散策していた。
??:希代の道化、相坂時流とお見受けします
しかし、榛希同様彼女にも魔の手は迫っていた。
相坂時流:誰よ、そんな呼び名つけたの…って言うかあんた誰よ
突然現れた人影に、しかし彼女は毅然と誰何する。
退かず、媚びず、省みずが彼女の信条なのだ。
??:私はアキ、あなたを打倒する者です
―――
少し時を遡る。
アキ:…来ましたね
戦略・戦術家検定準一級を所持する才媛アキ。彼女は部下を使い誤情報を流し、ある人物を誘い出した。
アキ:相坂時流…!
相坂時流を超える…それだけを考え、彼女は今日まで励んできた。
園葉:アキ姉様
楓:準備OKだよ
彼女の部下の双子のアサシン、二人は今日までよく仕え…
アキ:苦労をかけました
園葉:勿体ないお言葉
主の前で片膝をつき、忠誠を誓う園葉。
楓:ボクらはアキ姉が好きだからそばにいるんだから気にしないで
椅子に座るアキの太ももに頭を置きじゃれつく楓。
園葉:楓、主にタメ口を使うなとあれほど…
そんな妹を窘める園葉だが、
楓:ふーんだ
楓は羨ましいだろと言わんばかりに、さらにアキにしがみつく。
園葉:楓!
声を荒げる園葉。
それをアキは片手をあげて制し、
アキ:いいんですよ。さぁ、行きましょう。二人はあのシーフを抑えてください
楓の頭を撫でながら、命じる。
園葉:お任せを
アキ:上手くいったら…ご褒美をあげますよ
楓:うん!
園葉:はっ!
顔を赤くし、期待に震える双子を眺めながら、アキは内心誓った。
アキ:(似たキャラはいらない…私がオンリー1です!)
―――
町外れの荒野。
マーシュ:はぁ…はぁ…きっついな!
軽鎧に身を包む剣士の名はマーシュ。
三原色:なら休んでろ。邪魔だ
軽装ながら、煌めくガントレットをつけた格闘家、三原色。
マーシュ:なにを!
信頼しあうが故に憎まれ口をたたき合う間柄の二人であるが…
緋紅:あーもう!こんな時に喧嘩しない!
モンスターに囲まれ、必死に応戦する剣闘士緋紅からしたらたまったものではない。
マーシュ:悪い悪いw
緋紅:まったく…マーシュ後ろ!
短剣で攻撃をいなし、長剣でモンスターを仕留めた緋紅の表情が凍り付く。
マーシュ:え!?
マーシュの背後には既に攻撃態勢に入っている熊型モンスター!
三原色:マーシュ!
緋紅の投擲用ダガーも、三原の援護も間に合わず、モンスターの攻撃がマーシュに…!
ザシュッ
一閃。光が煌めく。
??:大丈夫か?
倒れ伏すモンスターの背後には剣…いや、刀を携えた男が一人。
マーシュ:あ、あぁ…
??:油断するな、ここのモンスターは狂暴なのが多い。支援もなく突撃するのは勇気ではなく、蛮勇だ
男は油断なく刀を構える。
三原:あんたは…
??:霧坂霊次。俺が道を拓く。生きて戻りたいならついて来い
駆け出す黒衣の侍。
マーシュ:どうする?
三原色:どうもこうもないだろ
緋紅:偉い人は言った。命あっての物種、と
マーシュ・三原色:異議なし!
侍を追う戦士達。
その先には…。
―――
街道。
ゆきひめ:どかーん!
ショタ:うわぁっ!?
馬車を御することに集中していた商人ショタの耳元で、雪女のゆきひめは叫んだ。
ゆきひめ:あっははは!驚いた?驚いた?
ショタ:どうしたのさ…
ゆきひめ:暇!構って甘えさせて!いちゃいちゃしよう!
ショタに抱き着き駄々をこねるゆきひめ。
満更でもないのか好きにさせるショタだったが、それを良しとしない者もいた。
次長:ゆきちゃん!私という者がありながら、なんでショタちゃんにばっかり懐くんですか!?
自称なまぐさ司教こと次長。
次長とはいわゆるコードネームであり本名は明かされていない。
それはともかく、次長は自らの使い魔であるはずのゆきひめがショタに懐いているのがあまり面白くなかった。
ショタ:懐くって…
ゆきひめ:だって、マスターまたお酒飲んだでしょ?
次長:ぎくっ…そ、それは…その…なーちゃんとスイ様が美味しそうに飲んでたから…
自称なまぐさは伊達ではなく、次長は酒も飲むし、肉も食べる。誘惑にも負ける。
しかし、一番の問題はゆきひめが大の酒嫌いであることだった。
このため、ゆきひめはあまり次長に近付いてはくれないのだ。
ナハト:人のせいにしないでほしいな
スイ:というか、一番飲んだの次長さんだし
一方、次長に罪をなすりつけられた二人、パラディンのナハトと呪術に精通した陰陽魔術師のスイは冷たい目をしていた。
次長:ぎくぎくっ
ナハト:良い機会だし、禁酒したらどうです?
ゆきひめ:賛成!
次長:う…ゆきちゃんが言うなら…でも…
踏ん切りのつかない次長。
勿論大事なのはゆきひめである。だが次長にとっとは酒もまた大切な嗜好品であった。
較べられないのだ。
ゆきひめ:私とお酒とどっちが大事なの!
ここでついに伝家の宝刀が抜かれた!
次長:ゆきちゃんです!…でも…そうだ!なーちゃんがタバコを辞めたら私もお酒辞めます!
ナハト:飛び火した!?
次長は諦めが悪かった。
…さてこの一団、人呼んで旅一座『時雨堂』。
芝居や、歌、はたまたそれぞれのスキルを活用しギルドからの依頼をこなし日銭を稼ぐ。
ショタ:見えましたよ!
スイ:おぉ…!あれが今回の目的地…
立派な城門、頑強な城壁を構え、絢爛な城がそびえるその街。
その名を…
スイ:勇者の集う街…!
―――
同時刻。時雨堂の面々の進む街道とは別の、通称旧街道にてモンスターとの遭遇戦に勝利した者達がいた。
m:…ふぅ、今ので最後、ですよね
彼女の名はm。魔術師ギルドにて講師を務めるほど才に恵まれた魔術師である。
カズ:…みたいです。はぁ〜疲れた
ゆり:お疲れ様〜。今回復してあげるね
パーティーの回復役の僧侶ゆりと、ゆりに付き従う魔法剣士カズ。
カズはゆりと魔術での主従契約を誓っており、便宜上は使い魔と呼ばれることもある。
カズ:ありがと、ゆり
m:癒されますねぇ
そう言うmの視線はゆりに固定されており、回復魔法よりもゆりそのものに癒されている感がある。
カズ:そう言えば、今向かってる所ってどんな所なんです?
m:歴史上、最も多くの勇者を生み出した所として有名な街です
先を見遣るm。その方向には遠くからでもわかるほどに絢爛な城がそびえる巨大都市。
ゆり:凄ぃね〜
m:中でも、タイラ一族という凄い一族がいらっしゃるようで。ぜひともお近づきになりたいものです
三人の目的…それはゆりの見た予知夢にある。
『世界を覆う暗雲』
『それを切り裂く勇者』
大なり小なり、様々なことを予知夢に見、的中させたゆりの予知夢を重く見た教会と魔術師ギルドは、ゆりと、その縁者であり腕利きのmとカズを護衛につけ送り出したのだ。
そう、彼らは勇者を求めているのだ。
カズ:楽しみですね
しかし、とうの三人はまるでバカンスに来たような気楽さである。
ゆり:じゃあ、少し休憩したら出発〜
果たして、彼らは探し求めなければならない勇者と出会えるのだろうか?
―――
たいら:さて、どうなることやら…名乗りの練習でもするか!
勇者に任じられたたいらと、続々と英雄の集う街に集まる者達。
この物語は、世界を救う為に戦った英雄達の物語…なのかもしれない。
10/10/11 18:56更新 / ナハト