(21)〜After Story〜
――むかしはよかったなぁ…。
自身の年齢に不相応な思考に囚われた男は沈みゆく夕日をぼんやりと眺めながらつくづくそう思った。
これでも少し前までは結構モテた。
幼馴染み達には及ばないがクラス内の級友達との気の置けない関係も気に入っていた。
だが、それも今では見る影も無い。
なんら普段と代わりばえのない日々。
されども充実していた日常。
しかし凋落は確かな形で男の頭上に訪れたのである。
たったひとつ。
たったひとつの噂が男の周囲の環境、その全てを変えてしまった。
安寧なる日は沈み落ち、いわれの無い揶揄恥辱に耐え続ける。
気がつけば…、そんな日々に生きて居た。
所詮は噂だ。
時間が経てば、皆が飽きれば自然に消失するに決まっている。
そんな苦し紛れの言い訳を胸に屈辱の日々に耐えるも、降り注ぐ雪のように絶えずのし掛かる辛苦に男の意志は早くも挫けかけていた。
そして思う。
あの噂さえ…。
あの噂さえ無ければと……。
↓ちなみにあの噂↓
『ロリ疑惑』
恭介は思った。
ロリコン扱いはマジ勘弁してください! …と。
なんせ噂が表に出てからというもの、自分を見る女子の視線があきらかに訝しげなものに変貌した。
その上男子もどこか一歩引いたようなよそよそしい態度を取るようになった。
何故か一部男子は逆に親しげに同士と呼んでくれるようになったが、なんの慰めにもなりゃしなかった。
まぁそれはともかくだ。俺は現状に大いに不満があった。
なぜならそもそも俺はロリコンなどではない。
ロリ疑惑が浮上した一件にしたってその場限りの冗談のつもりで発言したに過ぎない。
――もっともアレを鈴に聞かれてしまったのは痛恨の極みであったが…。
あれ以降というもの、鈴に対する兄の威厳は没落の一途を辿りまさしく変態扱い、真人や謙吾が俺をからかうネタとしてロリロリ言いだす始末。
それだけなら…っ、それだけならまだよかったんだ…ッ!
だが状況は俺にとって最悪の方向へと推移していく。
あの日、何気ない会話の中で真人がいつものように言い放った。
「まっ、お前ロリだしな!」
いつもなら「何度も言うが俺は別にロリじゃねえッ!!」と、返す所だがこの日に関しては少し事情が違った。
偶然、本当に偶然ふたりの人物がその場に出くわしてしまったことである。
件のふたり…、来ヶ谷 唯湖と三枝 葉留佳。
………最悪だ。
なんせ双方共に基本楽しけりゃOKで生きている人間である。
ああ……、もし本当に天上の神々が実在するのならば声高らかに問い質したい。
なんで毎度狙ったかのように最悪のタイミングで一番出くわしてはいけない人物と遭遇するのかと。
視線が交じ合う。
ニヤリ――と弄り甲斐のあるオモチャを見つけ、心底嬉しそうに表情を歪めるふたり。
「ま…」
待て――と止める猶予すらありはしなかった。
ふたりは瞬時に踵を返すとあっという間にその場を離脱。
恭介はあわを食って後を追うも相手はイリュージョンと称し何故か視認不可能な速度で動ける来ヶ谷と、普段から風紀委員相手にルパンととっつぁ〜んよろしく珍走劇を繰り広げている三枝である。
結局その影すらも捉えることが出来ず、半ば確信めいた不安を覚えながら帰宅の途につくことになる。
そして翌日。
……手遅れだった。
敢えて言うならば認知度100%だった。
文字通りあっと言う間に広がりジャ○ネットの社長もビックリなくらいオマケがごってり装備の大サービス。
ちなみに配信担当三枝、編集担当来ヶ谷だそうだ。
後日、本人達曰く。
「やはー、つい調子にノッてしまいまして…」
「うむ、今は反省している」
とのこと。
「なら最初からやるなあぁぁーーっ!」
そう吠えるとふたりは蜘蛛の子を散らすように「「わぁー♪」」と逃げ去った。
……そして、俺はロリコンに成り下がった。
「………フッ」
黄昏ながら一息つく。
畜生…なんで今日の夕焼け様はこんなに目に染みやがるんだ。
地平線の彼方、キラキラとした輝きがゆっくりと、しかし確かに沈んで行く。
遥か遠方に見える落日は、まるで今の自身を象徴しているかのように思えた。
現状はどうにかしたい、だが妙案は無い。
「……万策尽きたか…」
その場にガックリとうなだれる恭介。
この先ロリコン呼ばわりされて――特に鈴に――生きるのかと思うと…。
未来が…、未来が真っ白に燃え尽きていやがりました。
「と言い訳でどうすればいいと思う? 理樹」
「え゙っ……」
所変って食堂。
突然恭介から相談したいことがあると持ち掛けられた理樹は、その相談内容のある意味での壮絶さに隠しきれない困惑を覚えた。
端的に纏めれば以下の通りである。
【校内で完全にロリコン扱いされて困っているのですが…、いったいどうすればいいのでしょうか?】
それに対し理樹は率直にこう思った。
【困るっ!】
理樹自身、恭介には数えきれない程の恩があった。
そしてゆくゆくは、少しずつでもそれを返していきたいと常日頃から思っていたのもまごうことなき事実である。
だがしかし、この一件に関しては想定外にも程があった。
相談を持ち掛けられた当初は――恭介の力になれるチャンスだと――意気込んでいたが、いざ相談されれば内容は完全に常識の範疇外。
相談は相談でも辺りに立ち込める空気は恋の相談のような和気藹藹としたものでもなく。
人生相談のような真剣味溢れるものでもなく。
敢えてたとえるならばリストラリーマン相談会のような、逼迫絶望苦悩退廃渇望苦痛慟哭喪失疲弊抑圧自棄その他諸々が絶妙な匙加減でミックスされたような。
そんな空気だった…。
いったいどうしろと…?
「……恭介」
「なんだ?」
「…………ごめん」
「何故謝るっ!?」
とりあえず恭介的に撤退は不許可らしい…。
理樹はなんかもやもやしたものを胸中に抱えながらも、恭介の相談にのることにした。
「それで噂をなんとかしたいんだよね」
「…ああ」
恭介は重々しく言葉を吐き出す。
そして…。
「最近鈴の態度が特に冷たいんだ」
「えっ…鈴が?」
「ああ…。最近俺を見る目がまるで■■■■《検閲されました》を見るような感じだし、この間なんて出合い頭に死ね××××《不適切な発言がありました》野郎とか言われたし、あまつさえ話を聞いてもらおうと近寄ったら●●●●●《倫理上問題があります》扱いされたし……」
――うわああぁ…。
次々と恭介の口から飛び出す色々と問題のある言葉の羅列に、理樹は口端をひくつかせながらあんまりな棗兄妹の現状っぷりに思わず同情した。
「き、恭介! とりあえず落ち着いてっ!」
沈みきった面持ちで病気のようにぶつぶつと言葉を吐き出し続ける恭介の姿にある種の危機感を覚えた理樹は慌てて待ったをかける。
恭介は一瞬ハッとした表情をして正気に戻ると「すまん」と、一言返して姿勢を正した。
「やっぱり噂が自然に消えるまで待つしかないんじゃないかな…」
「……それしかないか…」
「うん…。恭介の噂に関しては完全に一人歩きしている状態だし……。正直もう少し時間を置かないと手が付けられないと思う…」
「………」
僕のその言葉に対し恭介は「…そうか」と短く答えると目線を下げ、疲れ切った様子で溜め息を吐いた。
「だ、大丈夫だよきっと。ほら、人の噂も七十五日って言うし」
「…そうかな」
「そうそう、元々冗談みたいなものなんだし」
「……冗談………だと…ッ」
「……あ゙」
――どうやら思い切り地雷を踏んでしまったらしい。
恭介はわなわなと小刻みに震え出す。
そして溜め込んだ負の念が集い、膨張が限界点に達すると一気に炸裂した。
「冗談で済むんなら●●《ピィー》ポくんなんか要らねぇんだよぉぉおおぉぉぉーーーッ!!」
うがぁぁぁーーーっ! と吠え猛る恭介。
悪い意味で周囲の注目を集めているにも関わらず、「そんなにロリコン野郎が滑稽か!? おかしいか! なら笑えばいいだろ!!」とひたすら自虐にひた走る恭介の姿に理樹は何故か妙な既知感を感じていた。
今や恥も外聞も無くシァウトする恭介は食堂中の視線を独り占め、その傍らに居る理樹はまさしく針の筵の心地であった。
――か、帰ろっかな〜…。
流石にこの場にとどまりたくない理樹は、恭介に気付かれないようにこっそりとその場を立ち去ろうとする。
――グワシッ。
しかし現実は非情である。
腕を掴まれ振り替えるとそこには澱みきった目を爛々と輝かせる恭介が立ちはだかっていた。
【注1】以降の会話は食堂にて周囲の注目を集めた状況でおこなわれています。
【注2】恭介氏は色々あったので正気じゃありません。
「理樹、どこに行くんだ」
「い、いやその…。そろそろ部屋に戻ろっかなぁ〜って…」
「もう少しくらいいいだろ」
「で、でもほらっ。もう外も暗いし…」
「理樹…、俺と一緒にいてくれないか?」
「………はい?」
「俺にはお前しかいないんだッ!」
「え………、えぇぇぇーーーっ!??」
「頼む」
「ち、ちょっと待って恭介!? 何言ってるの!?」
「もう…、俺にはお前しかいないんだよ……っ」
「そこで泣き落とし!?」
で、そんなことがあった翌日。
『号外』
幼馴染みの同士の禁断の愛!
絡み合うふたりの愛憎劇とはっ!!
『校内新聞第37号より抜粋』
――ねえねえ、これってどう言うこと…。
――実は棗くんと直枝くんって〜…。
――うっそー、マジ…。
――超マジ! だって昨日食堂で…。
――ひそひそ…。
――ヒソヒソ…。
――ひそひそひそひそひそひそひそひそひそひそひそひそ…。
「…………恭介」
「な…、なんだ理樹?」
「しばらく僕に近寄らないで」
一方的にそう通告すると理樹は速やかにその場を立ち去る。
後には恭介ひとりが残されていた。
――うっわ〜、棗くん振られた…。
――ねぇ、アレって修羅場? 修羅場? …。
「う……。うわぁぁぁああああぁぁぁーーーッッ!!!」
人の噂も七十五日。
彼の苦難は…。
まだ始まったばかりである。
自身の年齢に不相応な思考に囚われた男は沈みゆく夕日をぼんやりと眺めながらつくづくそう思った。
これでも少し前までは結構モテた。
幼馴染み達には及ばないがクラス内の級友達との気の置けない関係も気に入っていた。
だが、それも今では見る影も無い。
なんら普段と代わりばえのない日々。
されども充実していた日常。
しかし凋落は確かな形で男の頭上に訪れたのである。
たったひとつ。
たったひとつの噂が男の周囲の環境、その全てを変えてしまった。
安寧なる日は沈み落ち、いわれの無い揶揄恥辱に耐え続ける。
気がつけば…、そんな日々に生きて居た。
所詮は噂だ。
時間が経てば、皆が飽きれば自然に消失するに決まっている。
そんな苦し紛れの言い訳を胸に屈辱の日々に耐えるも、降り注ぐ雪のように絶えずのし掛かる辛苦に男の意志は早くも挫けかけていた。
そして思う。
あの噂さえ…。
あの噂さえ無ければと……。
↓ちなみにあの噂↓
『ロリ疑惑』
恭介は思った。
ロリコン扱いはマジ勘弁してください! …と。
なんせ噂が表に出てからというもの、自分を見る女子の視線があきらかに訝しげなものに変貌した。
その上男子もどこか一歩引いたようなよそよそしい態度を取るようになった。
何故か一部男子は逆に親しげに同士と呼んでくれるようになったが、なんの慰めにもなりゃしなかった。
まぁそれはともかくだ。俺は現状に大いに不満があった。
なぜならそもそも俺はロリコンなどではない。
ロリ疑惑が浮上した一件にしたってその場限りの冗談のつもりで発言したに過ぎない。
――もっともアレを鈴に聞かれてしまったのは痛恨の極みであったが…。
あれ以降というもの、鈴に対する兄の威厳は没落の一途を辿りまさしく変態扱い、真人や謙吾が俺をからかうネタとしてロリロリ言いだす始末。
それだけなら…っ、それだけならまだよかったんだ…ッ!
だが状況は俺にとって最悪の方向へと推移していく。
あの日、何気ない会話の中で真人がいつものように言い放った。
「まっ、お前ロリだしな!」
いつもなら「何度も言うが俺は別にロリじゃねえッ!!」と、返す所だがこの日に関しては少し事情が違った。
偶然、本当に偶然ふたりの人物がその場に出くわしてしまったことである。
件のふたり…、来ヶ谷 唯湖と三枝 葉留佳。
………最悪だ。
なんせ双方共に基本楽しけりゃOKで生きている人間である。
ああ……、もし本当に天上の神々が実在するのならば声高らかに問い質したい。
なんで毎度狙ったかのように最悪のタイミングで一番出くわしてはいけない人物と遭遇するのかと。
視線が交じ合う。
ニヤリ――と弄り甲斐のあるオモチャを見つけ、心底嬉しそうに表情を歪めるふたり。
「ま…」
待て――と止める猶予すらありはしなかった。
ふたりは瞬時に踵を返すとあっという間にその場を離脱。
恭介はあわを食って後を追うも相手はイリュージョンと称し何故か視認不可能な速度で動ける来ヶ谷と、普段から風紀委員相手にルパンととっつぁ〜んよろしく珍走劇を繰り広げている三枝である。
結局その影すらも捉えることが出来ず、半ば確信めいた不安を覚えながら帰宅の途につくことになる。
そして翌日。
……手遅れだった。
敢えて言うならば認知度100%だった。
文字通りあっと言う間に広がりジャ○ネットの社長もビックリなくらいオマケがごってり装備の大サービス。
ちなみに配信担当三枝、編集担当来ヶ谷だそうだ。
後日、本人達曰く。
「やはー、つい調子にノッてしまいまして…」
「うむ、今は反省している」
とのこと。
「なら最初からやるなあぁぁーーっ!」
そう吠えるとふたりは蜘蛛の子を散らすように「「わぁー♪」」と逃げ去った。
……そして、俺はロリコンに成り下がった。
「………フッ」
黄昏ながら一息つく。
畜生…なんで今日の夕焼け様はこんなに目に染みやがるんだ。
地平線の彼方、キラキラとした輝きがゆっくりと、しかし確かに沈んで行く。
遥か遠方に見える落日は、まるで今の自身を象徴しているかのように思えた。
現状はどうにかしたい、だが妙案は無い。
「……万策尽きたか…」
その場にガックリとうなだれる恭介。
この先ロリコン呼ばわりされて――特に鈴に――生きるのかと思うと…。
未来が…、未来が真っ白に燃え尽きていやがりました。
「と言い訳でどうすればいいと思う? 理樹」
「え゙っ……」
所変って食堂。
突然恭介から相談したいことがあると持ち掛けられた理樹は、その相談内容のある意味での壮絶さに隠しきれない困惑を覚えた。
端的に纏めれば以下の通りである。
【校内で完全にロリコン扱いされて困っているのですが…、いったいどうすればいいのでしょうか?】
それに対し理樹は率直にこう思った。
【困るっ!】
理樹自身、恭介には数えきれない程の恩があった。
そしてゆくゆくは、少しずつでもそれを返していきたいと常日頃から思っていたのもまごうことなき事実である。
だがしかし、この一件に関しては想定外にも程があった。
相談を持ち掛けられた当初は――恭介の力になれるチャンスだと――意気込んでいたが、いざ相談されれば内容は完全に常識の範疇外。
相談は相談でも辺りに立ち込める空気は恋の相談のような和気藹藹としたものでもなく。
人生相談のような真剣味溢れるものでもなく。
敢えてたとえるならばリストラリーマン相談会のような、逼迫絶望苦悩退廃渇望苦痛慟哭喪失疲弊抑圧自棄その他諸々が絶妙な匙加減でミックスされたような。
そんな空気だった…。
いったいどうしろと…?
「……恭介」
「なんだ?」
「…………ごめん」
「何故謝るっ!?」
とりあえず恭介的に撤退は不許可らしい…。
理樹はなんかもやもやしたものを胸中に抱えながらも、恭介の相談にのることにした。
「それで噂をなんとかしたいんだよね」
「…ああ」
恭介は重々しく言葉を吐き出す。
そして…。
「最近鈴の態度が特に冷たいんだ」
「えっ…鈴が?」
「ああ…。最近俺を見る目がまるで■■■■《検閲されました》を見るような感じだし、この間なんて出合い頭に死ね××××《不適切な発言がありました》野郎とか言われたし、あまつさえ話を聞いてもらおうと近寄ったら●●●●●《倫理上問題があります》扱いされたし……」
――うわああぁ…。
次々と恭介の口から飛び出す色々と問題のある言葉の羅列に、理樹は口端をひくつかせながらあんまりな棗兄妹の現状っぷりに思わず同情した。
「き、恭介! とりあえず落ち着いてっ!」
沈みきった面持ちで病気のようにぶつぶつと言葉を吐き出し続ける恭介の姿にある種の危機感を覚えた理樹は慌てて待ったをかける。
恭介は一瞬ハッとした表情をして正気に戻ると「すまん」と、一言返して姿勢を正した。
「やっぱり噂が自然に消えるまで待つしかないんじゃないかな…」
「……それしかないか…」
「うん…。恭介の噂に関しては完全に一人歩きしている状態だし……。正直もう少し時間を置かないと手が付けられないと思う…」
「………」
僕のその言葉に対し恭介は「…そうか」と短く答えると目線を下げ、疲れ切った様子で溜め息を吐いた。
「だ、大丈夫だよきっと。ほら、人の噂も七十五日って言うし」
「…そうかな」
「そうそう、元々冗談みたいなものなんだし」
「……冗談………だと…ッ」
「……あ゙」
――どうやら思い切り地雷を踏んでしまったらしい。
恭介はわなわなと小刻みに震え出す。
そして溜め込んだ負の念が集い、膨張が限界点に達すると一気に炸裂した。
「冗談で済むんなら●●《ピィー》ポくんなんか要らねぇんだよぉぉおおぉぉぉーーーッ!!」
うがぁぁぁーーーっ! と吠え猛る恭介。
悪い意味で周囲の注目を集めているにも関わらず、「そんなにロリコン野郎が滑稽か!? おかしいか! なら笑えばいいだろ!!」とひたすら自虐にひた走る恭介の姿に理樹は何故か妙な既知感を感じていた。
今や恥も外聞も無くシァウトする恭介は食堂中の視線を独り占め、その傍らに居る理樹はまさしく針の筵の心地であった。
――か、帰ろっかな〜…。
流石にこの場にとどまりたくない理樹は、恭介に気付かれないようにこっそりとその場を立ち去ろうとする。
――グワシッ。
しかし現実は非情である。
腕を掴まれ振り替えるとそこには澱みきった目を爛々と輝かせる恭介が立ちはだかっていた。
【注1】以降の会話は食堂にて周囲の注目を集めた状況でおこなわれています。
【注2】恭介氏は色々あったので正気じゃありません。
「理樹、どこに行くんだ」
「い、いやその…。そろそろ部屋に戻ろっかなぁ〜って…」
「もう少しくらいいいだろ」
「で、でもほらっ。もう外も暗いし…」
「理樹…、俺と一緒にいてくれないか?」
「………はい?」
「俺にはお前しかいないんだッ!」
「え………、えぇぇぇーーーっ!??」
「頼む」
「ち、ちょっと待って恭介!? 何言ってるの!?」
「もう…、俺にはお前しかいないんだよ……っ」
「そこで泣き落とし!?」
で、そんなことがあった翌日。
『号外』
幼馴染みの同士の禁断の愛!
絡み合うふたりの愛憎劇とはっ!!
『校内新聞第37号より抜粋』
――ねえねえ、これってどう言うこと…。
――実は棗くんと直枝くんって〜…。
――うっそー、マジ…。
――超マジ! だって昨日食堂で…。
――ひそひそ…。
――ヒソヒソ…。
――ひそひそひそひそひそひそひそひそひそひそひそひそ…。
「…………恭介」
「な…、なんだ理樹?」
「しばらく僕に近寄らないで」
一方的にそう通告すると理樹は速やかにその場を立ち去る。
後には恭介ひとりが残されていた。
――うっわ〜、棗くん振られた…。
――ねぇ、アレって修羅場? 修羅場? …。
「う……。うわぁぁぁああああぁぁぁーーーッッ!!!」
人の噂も七十五日。
彼の苦難は…。
まだ始まったばかりである。
09/07/02 12:57更新 / たいら