いつもくーる(笑)なスイちゃんが、こんなに可愛いわけがない
「ときるん〜」
量産型ゆりにゃんのメンテナンスをしているいつもの昼下がりの保健室。って職場に仕事持ち込むんじゃない!と笑夢姉さんに怒られそうね。さて、そんなメンテナンス真っ最中の保健室に入ってきたのは、珍しいお客さんだった。
「あら、スイ姉さん。珍しいわね。今日はお仕事じゃないの?」
「公用外出なう。ときるんこそ土曜日なのに保健室?」
あたしたち教師には完全週休二日なんてゆとり方針はなんら関係ない。特に養護教諭は部活あるところ常に常駐する必要があるのだ。でも出るかも分からない怪我人を待つのも退屈だし(教師失格だ!)、とりあえず仕事持ち込んでみた。あ、これはハゲ校長とグロ教頭には内緒ね。カラダで解決するしかない事態になるから。
「こらー、まじめにしろー」
「あーい」
で、スイ姉さんの用事ってなんだってばよ。
言う前に、彼女から言ってきた。
「ときるん、血ー」
「あー、はいはい」
それだけ答えてあたしは、タートルネックから首を軽く露出させると、かぷっ、と可愛い擬音を出してかぶり付くスイ姉さんを見守った。
--------同時刻 m。
時流さんちゃんとお仕事しているでしょうか。
アレだけ止めたのに量産型ゆりちゃんを持ち込んで修理なんて、教頭や校長にばれなければいいんですが…。だってバレちゃったら私が量産型ゆりちゃんを持ち込めなくなってしまうではないですか!
イヤですイヤです!せっかく専用チューンしてもらった『お茶汲みゴスにゃん』が大好評を博して姉として鼻が高いのに!そして癒されるのに!ってことで観察しにいきます!
「時流さん!」
ガラガラ。勢いよくドアをスライドさせると。
「あ」
「あ」
椅子に座ってされるがままの時流さんと、その首筋に噛み付くスイさん。
こ、これは…。
「ゆ、百合の園〜〜〜〜っ!」
駆け出した私はそのままルパンダイブ。そして強烈なカウンターパンチで床に沈んだのだった。お姉ちゃんなのに。ぐすん。
--------時間軸を戻す。
「あー。なるほど」
「って話してなかったっけ?」
「えぇ、全然w」
「ちうちう」
「吸いすぎですw」
もともと魔界で育った純血の悪魔、魔王スイは、人間界では何食わぬ顔で人間っぽく生きているけど、それゆえ通常の空気や食文化には適応できず、たまにこうして純粋な栄養補給が必要なのだ。
だからといって誰の血でも良い訳ではない。純血の魔王にとって、同等レベルの魔力を持った悪魔、死神、ハーフデヴィル、こうした存在の血が一番望ましく、栄養補給もしやすい。ただ「なはとんのは美味しくなーい」と味にケチつける始末だったので、彼女が人間界に来てからずっと、あたしがこういう風に血を提供しているのだ。
「そうすることで自称ハイブリッドなスイさんは2週間の作戦行動が可能になる、だそうよ」
「ちうちう(こくん)」
「血を吸いながら頷かないで下さいw萌えるじゃないですかw」
この姉は。
しかしまぁ、血を吸うために、普段隠している犬歯、というより八重歯が出てくるなんて器用だし、これ相当萌えコンテンツだと思う。後はその犬歯に開けられた穴を魔法で塞ぐだけですべて完了。
ただ、これには困った欠点があって。
「ふぅ、満腹」
次の瞬間。ポンッ、という擬音と共に。
「スイさんw」
「そうなのよ」
「わふっ!」
血を吸って魔力と栄養補給が完了したスイ姉さんは、人間界時間で6時間ほど、ウェルシュコーギーに変身してしまうのだ。
「魔力を全身に行き渡らせるためには、小さなボディに凝縮したほうがいいってことで、使い魔の姿を借りて充電を始めちゃうのよ」
「うわー可愛い…。でもそれなら幼女スイたんでもいいと思いますw」
「がるるるるる…」
「あ、言っとくけどそれ昔あたしが提案してスイ姉さんに殴られ済みだから」
「ツワモノがいましたか!w」
幼女にされるのはあれこれトラウマがあるようで。
「でもそんな姿になったら魔王とはいえ簡単に…」
「何言ってんだか。そのためにあたしがそばにいるんだし、それに」
次の瞬間、笑夢姉さん動きを封じられた。
「魔王としての魔力は健在よ。ほら、なでなではぐはぐしたくても出来ないでしょ」
「わふっ」
「鬼畜です!このお二人、いえもとい一人と一匹鬼畜ですうわわそんなに締め付けないで下さい!w」
余計なことを言うから当社比120パーセントで締め付け中。
でもこの姿の間は基本充電と称してぐーたら。しかもお菓子食べながら漫画読んでゴロゴロという、人間モードとあまり変わらない行動パターン。ほら、始まった。
「ごろごろ(バリバリ)」
おせんべ食べながら器用にページ捲って漫画読んでる。しかもiPadで。
「な、何てハイテクなワンちゃんですかってあたたた締めつけないでw」
まだ魔法適用してたのね。無駄なこと言うから締め付けられる。
面白いからそのままにしておこう。
すると。
がらがらっ!
「探しましたよときるん様!さぁ今日こそ私が考案した最新のゆりちゃんを…っ!」
「くぅん?」
あたしとヘンなカッコで締め付けられてる(あえて言えば荒ぶる天神乱漫なポーズ)笑夢姉さんより、真っ先に次長さんの目に飛び込んだのは、コーギースイ。ん、待てよ、ウェルシュスイにしたほうが芸人っぽい。
「…」
「…」
「ときるん様」
「あげないわよ」
「っち」
言うことは大体想像付くわ。
「ゆーくんと戯れるところを見たいのに…見たいのにぃっ…」
でもこのワンちゃんはスイ姉さんだなんて口が裂けても言えないわ。あたしが八つ裂きにされちゃうし、何より本人も理解出来ないだろう。そう、しいて言えば今わの際にとんでもないお方をワンちゃん呼ばわりしたことを後悔してしまうくらい。
「で、笑夢様はなんでそんな格好を?」
「あぁ、ダイエットに効果があるらしいわ。ね、笑夢姉さん?」
「え、あ、いやこれはスイさんの」
「姉さん」
「は、はいそうでーす☆w」
「?」
「スイ姉さんが教えてくれたんだって」
「確かに効果ありそうなポージングですね。わたしもやってみましょう」
そしてまんまと乗せられる次長さん。えぇ、隠れて写メ撮った。んで、スイ犬さんは、そんなのまったく意に介さないように、また本を読む作業に戻ったのだった。
ってiPad使ってる上におせんべ食べてる時点でつっこみなさいよ。
量産型ゆりにゃんのメンテナンスをしているいつもの昼下がりの保健室。って職場に仕事持ち込むんじゃない!と笑夢姉さんに怒られそうね。さて、そんなメンテナンス真っ最中の保健室に入ってきたのは、珍しいお客さんだった。
「あら、スイ姉さん。珍しいわね。今日はお仕事じゃないの?」
「公用外出なう。ときるんこそ土曜日なのに保健室?」
あたしたち教師には完全週休二日なんてゆとり方針はなんら関係ない。特に養護教諭は部活あるところ常に常駐する必要があるのだ。でも出るかも分からない怪我人を待つのも退屈だし(教師失格だ!)、とりあえず仕事持ち込んでみた。あ、これはハゲ校長とグロ教頭には内緒ね。カラダで解決するしかない事態になるから。
「こらー、まじめにしろー」
「あーい」
で、スイ姉さんの用事ってなんだってばよ。
言う前に、彼女から言ってきた。
「ときるん、血ー」
「あー、はいはい」
それだけ答えてあたしは、タートルネックから首を軽く露出させると、かぷっ、と可愛い擬音を出してかぶり付くスイ姉さんを見守った。
--------同時刻 m。
時流さんちゃんとお仕事しているでしょうか。
アレだけ止めたのに量産型ゆりちゃんを持ち込んで修理なんて、教頭や校長にばれなければいいんですが…。だってバレちゃったら私が量産型ゆりちゃんを持ち込めなくなってしまうではないですか!
イヤですイヤです!せっかく専用チューンしてもらった『お茶汲みゴスにゃん』が大好評を博して姉として鼻が高いのに!そして癒されるのに!ってことで観察しにいきます!
「時流さん!」
ガラガラ。勢いよくドアをスライドさせると。
「あ」
「あ」
椅子に座ってされるがままの時流さんと、その首筋に噛み付くスイさん。
こ、これは…。
「ゆ、百合の園〜〜〜〜っ!」
駆け出した私はそのままルパンダイブ。そして強烈なカウンターパンチで床に沈んだのだった。お姉ちゃんなのに。ぐすん。
--------時間軸を戻す。
「あー。なるほど」
「って話してなかったっけ?」
「えぇ、全然w」
「ちうちう」
「吸いすぎですw」
もともと魔界で育った純血の悪魔、魔王スイは、人間界では何食わぬ顔で人間っぽく生きているけど、それゆえ通常の空気や食文化には適応できず、たまにこうして純粋な栄養補給が必要なのだ。
だからといって誰の血でも良い訳ではない。純血の魔王にとって、同等レベルの魔力を持った悪魔、死神、ハーフデヴィル、こうした存在の血が一番望ましく、栄養補給もしやすい。ただ「なはとんのは美味しくなーい」と味にケチつける始末だったので、彼女が人間界に来てからずっと、あたしがこういう風に血を提供しているのだ。
「そうすることで自称ハイブリッドなスイさんは2週間の作戦行動が可能になる、だそうよ」
「ちうちう(こくん)」
「血を吸いながら頷かないで下さいw萌えるじゃないですかw」
この姉は。
しかしまぁ、血を吸うために、普段隠している犬歯、というより八重歯が出てくるなんて器用だし、これ相当萌えコンテンツだと思う。後はその犬歯に開けられた穴を魔法で塞ぐだけですべて完了。
ただ、これには困った欠点があって。
「ふぅ、満腹」
次の瞬間。ポンッ、という擬音と共に。
「スイさんw」
「そうなのよ」
「わふっ!」
血を吸って魔力と栄養補給が完了したスイ姉さんは、人間界時間で6時間ほど、ウェルシュコーギーに変身してしまうのだ。
「魔力を全身に行き渡らせるためには、小さなボディに凝縮したほうがいいってことで、使い魔の姿を借りて充電を始めちゃうのよ」
「うわー可愛い…。でもそれなら幼女スイたんでもいいと思いますw」
「がるるるるる…」
「あ、言っとくけどそれ昔あたしが提案してスイ姉さんに殴られ済みだから」
「ツワモノがいましたか!w」
幼女にされるのはあれこれトラウマがあるようで。
「でもそんな姿になったら魔王とはいえ簡単に…」
「何言ってんだか。そのためにあたしがそばにいるんだし、それに」
次の瞬間、笑夢姉さん動きを封じられた。
「魔王としての魔力は健在よ。ほら、なでなではぐはぐしたくても出来ないでしょ」
「わふっ」
「鬼畜です!このお二人、いえもとい一人と一匹鬼畜ですうわわそんなに締め付けないで下さい!w」
余計なことを言うから当社比120パーセントで締め付け中。
でもこの姿の間は基本充電と称してぐーたら。しかもお菓子食べながら漫画読んでゴロゴロという、人間モードとあまり変わらない行動パターン。ほら、始まった。
「ごろごろ(バリバリ)」
おせんべ食べながら器用にページ捲って漫画読んでる。しかもiPadで。
「な、何てハイテクなワンちゃんですかってあたたた締めつけないでw」
まだ魔法適用してたのね。無駄なこと言うから締め付けられる。
面白いからそのままにしておこう。
すると。
がらがらっ!
「探しましたよときるん様!さぁ今日こそ私が考案した最新のゆりちゃんを…っ!」
「くぅん?」
あたしとヘンなカッコで締め付けられてる(あえて言えば荒ぶる天神乱漫なポーズ)笑夢姉さんより、真っ先に次長さんの目に飛び込んだのは、コーギースイ。ん、待てよ、ウェルシュスイにしたほうが芸人っぽい。
「…」
「…」
「ときるん様」
「あげないわよ」
「っち」
言うことは大体想像付くわ。
「ゆーくんと戯れるところを見たいのに…見たいのにぃっ…」
でもこのワンちゃんはスイ姉さんだなんて口が裂けても言えないわ。あたしが八つ裂きにされちゃうし、何より本人も理解出来ないだろう。そう、しいて言えば今わの際にとんでもないお方をワンちゃん呼ばわりしたことを後悔してしまうくらい。
「で、笑夢様はなんでそんな格好を?」
「あぁ、ダイエットに効果があるらしいわ。ね、笑夢姉さん?」
「え、あ、いやこれはスイさんの」
「姉さん」
「は、はいそうでーす☆w」
「?」
「スイ姉さんが教えてくれたんだって」
「確かに効果ありそうなポージングですね。わたしもやってみましょう」
そしてまんまと乗せられる次長さん。えぇ、隠れて写メ撮った。んで、スイ犬さんは、そんなのまったく意に介さないように、また本を読む作業に戻ったのだった。
ってiPad使ってる上におせんべ食べてる時点でつっこみなさいよ。
11/02/18 02:07更新 / 相坂 時流