一階の薄暗い生物室の扉の前に私はただじっと開くのを待っていた
こういうとき、悪いことをしたわけでもないのにどうしても気持ちが落ち着かないのはどうしてだろう
そんなことを思っているときだった、生物室の中から一斉にイスの引く音が聞こえる
それと同時に扉が開き生徒がずらっと出てくる
少し待って中にほとんどの生徒がいなくなったことを確認して、私はそっといつも座っている席に向かう
(窓側の一番後ろ… )
近付くまでは気がつかなかったが、私の席の場所にはまだ座っている生徒がいた
(…小学生? )
…ぱっと見るとまるで小学生のような小柄で華奢な子が座っていた
自分もクラスではかなり小さなほうだけど、目の前のこの子はそんな私よりもずっとずっと小さかった
そしてもっと目を引くことは
ハーフなのだろうか…、髪の色が、白…いや銀色をしていたことだった、銀色の髪のショートボブ
ありえないほど白く透き通った肌
(こんなに可愛い子この学校にいたなんて)
「あのぅ… 」
(…瞳の色が青い )
不安げな表情を浮かべていたその少女は小さな声でそう呟いた
私の目を見たその綺麗なビー玉のような大きな青い瞳、柔らかそうな真っ白くて綺麗な頬っぺた、見れば見るほど見とれてしまう
同じ学校にこんな可愛い子がいるなんて私は全く知らなかった…
「…ぁ いきなりごめんね 実は…ここの机の中にペンケース入ってなかったかな? 」
あまりにこの子が幼く見えて、思わず子供と話すときのような口調になっている自分に自分で驚く
「ペン…ケース? 」
そう言うとその子は首をかしげ机の中をごそごそとし始めた
その仕草を見ていると本当に小学生が何かを探しているようで可愛くてまた見とれてしまう
「…これ? 」
また首をかしげながら黙って机の中から取り出したは、…水玉模様のペンケース
そう、紛れも無い私のペンケースだった
「あっ! これー 探してたんだっ 本当にありがとうね 」
「……こくっ 」
そう一回頷いて、その子は俯いてしまった
…………
お互い会話が進まない…
もともと私も人見知りだし、こうやって自分から誰かに声をかけたのもいつ以来だろう
(そろそろ…私もクラスに戻らないと )
そう思ったときだった
偶然に目に入った机の隅っこ、ちょうどさっきまで見ていた落書きがあった場所…
(…!? )
…驚いた
一時間前までは確かに私の書き込みの下には何も書かれていなかったはずの落書きに、新たに文章が増えていたからである
「…助けてください… 」
そう小さくつづられた文章…、始めの落書きに続く救難信号
「…この落書き」
私がそう言って落書きを指差したそのときだった
「…っ!! 」
さっきまで俯いていたその子はいきなりビクッと反応する
「…ぁぅ… 」
そして、さらに下を向いてシュンと縮こまってしまう
「ぁっ えっと…ごめんね 」
私はとっさに謝ってしまった
そのときだった、いきなり目の前の少女は立ち上がり、そのまま走り去ってしまった…
「ぁ…っ 」
(やっぱり… 言わなきゃよかったのかなぁ… )
…………
「あれ? 」
(そういえばあの子、教科書もノートもペンケースも置いてっちゃった…)
教科書の裏を見てみる
(…1年B組 桜月 有珠 )
同じ一年生だったんだ
やっぱりさっきのことも謝らなくちゃ…だめだよね
ペンケースの恩もあるし、帰りに届けてあげよう
…………
生物室を出て教室へ戻る
その途中だった
「ゆり〜 」
後ろを振り返ったときだった
「灯? どうしたの? 」
「ぃやー もうホームルーム
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