ようやく、ここからが出発点だ
クジラだって飛んでそうな希望に満ちた月夜の下
騒ぎ出した胸は熱を増して、逆らう意欲を膨らませて私達は勝負の夜を企てた
開け放たれた窓からは、まさに出航の朝にふさわしいマイナスイオンたっぷりの風が吹き込み、狭い部屋を最大限に広く使っている
更にはどっから持ってきたのか、テーブルの上には体育祭や行事でしか使われないような、巨大な真っ白の用紙が広げられている
それはまるで、部室の据えられた机と作戦が書かれていた黒板のようだった
「さて、どうするか 」
灯を筆頭に、黒ペン片手に考え出された策を協議していく
現在の街の状況から整理した私達の課題は
私達が警察に見つからず、当日、桐島さんのいる警察署までの道のりを撹乱し
そして警察より先にハルを見つけ、桐島さんを殺さないように説得し、導くこと
その後はどうなるかは分からない
けれども恐らくこれが真実を知った私達が、このカルマに介入する一番道徳的方法
・ハルを見つけ、ウィッチから救い、殺意を取り除く事
あのハンバーグでもだめだったんだ、とても口で説得出来るとは思えない
ハルはそれほどの傷を抱えている
だから、この三日間でこれに関してもあらゆる策を練る
・警察を阻止する事
・桐島さんに会わせる事
二人が対面したらどうなるかも分からない
今更ハッピーエンドは求めないし出来そうもない、結局どちらかが潰れて終わるリスクはある
だけどきっと両者の言い分を交えるには、やっぱり顔を見て、声を出して話さないといけないと思うから
それが、一度はカルマによってバラバラに引き裂かれた私達の経験から導き出された
真実の向こう側へ行く答えだ
***
とは言ったものの、勢いだけは一端に、確かに現実的に考えるとなかなか案が出てこない
ウィザードの広範囲のフェイクも、誰もを欺くスイミーの芝居も、そして重量ゼロのアマリリスの攻撃力も
今はもうない、全てが見つかってしまったのだ
つまり今、ここにはただの女子高生が五人いるだけ
ただの弱い、無力で普通の女子高生がいるだけ
それでどうやったら勝てる?
三日間で、どうやって一度敗れた街を倒してみせる?
どこをどうすればいいのか、全く想像も出来なかった
「……… 」
さすがの灯も今回ばかりは手の動きが止まっていた
「どうしましょうか 」
そのまま数分、ほとんど空白の用紙を囲み
立っては中腰になり、また行き詰まり座ってをメンバーは繰り返していた
「ほにゃぁ 」
誰しもが、やっぱり無理なのかと、薄々でも頭の片隅で思いかけていた
無駄に広い白紙が嫌なほどまじまじと気持ちを比例して
なす術がなく、力をなくした私達では無理なのかと
協議の時間を重ねるほど、偉大すぎる夢の逃げ口を塞がれるように
地に足をついた現実に、直面した沈黙の世界に痛感させられていた
ついに、灯の手から一度ペンが置かれようとした
そのときだった――
「ボクの‘友達の輪’…使う? 」
突如として、現状を劇的に破る、満天の部屋に響いた声
「…ぇ? 」
なんとそれを放ったのは、終始無言を貫いていた、あの奏だった
それまで重かった部屋の空気を青い爽快感がガラリと変え
目を疑うほどの凛々しい眼差しをジト目少女は向けていた
「ぇ…友達の輪って? 奏の友達? 」
「……こくっ 」
奏は青白い肌を向けて一度だけ頷いた
「失礼さけど、あんまり奏にそんな友達がいそうな気がしないんさけど 」
「お気持ちはありがたいのですが、残念ですが、あと一人や二人
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