放課後、ヒビの入った灰色の校舎は西日を受け、部活動の生徒だけの声が佇む風景に静かに流れていた
生徒の消えた廊下は冷たく、窓ガラスから踊り場にまで伸びたオレンジ色がどこか物寂しげに辺りに影を作っていた
そんな景色とは真逆に、五人は真っ直ぐ足音を響かせて、立ち並ぶ教室を走り抜けて衝動を放っていた
階段を飛び越えて、暗い生徒玄関でローファーのかかとを踏み潰し、焦げ色のちぎれ雲の下、香りたつ広いグランドを駆け
そして図書館へ続く駅前の雑踏を進んでいった
あの後屋上でひよりに話すと、すっと立ち上がり、一つの間も開けず、然も当たり前のように胸の底から出した息で受け止めてくれた
むしろ喜んで微笑み、瞳にかかった前髪を揺らして、そして包み込んでくれた
「灯ちゃんにはいつも助けていただきましたからね
全員の知恵を絞ってでも、必ず今日中に考え出してみせましょう」
そう言って、ひよりはぶかぶかのカーディガンからちょこんと出した指先を胸元に当てて、キュッと握りこぶしを作ってみせた
頼もしく、続く青空の下で純白の有珠と夜色の奏も頷いた
***
もう後のない、危機感を滲ませながら刻々と終わりに進む世界
夜へと残された僅かな一日は、穏やかだった日中を塗り潰すかのように、乗っ取った墨色を街や電柱に蓄えていく
傾く夕日を背に受けて、行き詰まった夢の中、闇に閉ざされた最後の答えを目指して
お昼休みに叫んだ私の言葉通りに、この街の知識か集結する図書館に大きな期待を抱いて、並木通りから駅へと歩いていった
加速する支配された夜に反抗して進んでいると、それだけでなんだか無性にワクワクしてくる
必ず何かを呼び起こして、こんな街を変えてみせるんだ
絶対的エースのピンチを、今度は私達が支えてみせるんだ
ブレーキなんかぶっ壊して、風を切って丘からスニーカーで飛び降りたい
‘何かを掴める’そんな気分になれるんだ
けれども、ただその中心にいる張本人だけは…
「…ごめん あたしが出来る事はこれだけだったのに、キャプテンなのに、あたしの力不足で… 」
未だに完全には乗り気になれず、まだ重い重力を背負っていた
「気にしないで下さい、信じて下さい もう一人で考え込まなくてもいいんですから
ただほんのちょっぴりだけお願いします、私達に途中までのアイディアを預けて下さい その代わりに、完成させますから 」
「でも…、あたしの唯一の役割なのに、責任だったのに…」
灯はこのチームをずっと先頭で支えてきたリーダーだからこその後ろめたい気持ちを滲ませていた
一番大事な局面を果たせなかった才能が、頑なに負の荷物となって引きずってしまっていたのだ
「大丈夫だよ、大丈夫、心配ない、僕たちがついてるじゃんか
絶対、僕たちで灯の続きを作ってみせる 今度は僕たちが頑張る番だ 」
「……ボクも……」
出来なかった事に落ち込む灯の背を押して、有珠は僕に、四枚の欠けた能力は、個々に力を高めていった
それぞれに磨り減った能力を補う為に、私達は二人で一つ、それでも挫けるなら五つで一つの能力を掲げるのだ
「――作ろうよ、私達の最後の夢を 」
「…ごめん、本当にごめん… 肝心なときに、こんな最後の最後で力不足で…っ 」
初めて、灯が一人で出来なかった
進む為にその唯一無敵の取り柄を譲る、今まで努めてきた立派なポジションを皆の望みの為に閉じる
ある種の敗北感、挫折感
……積み荷を下ろす
それがどんなに苦しかったか、悔しく情けない事か
そうして促され、肩を並べた
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