-9月30日-(火)- 3日目
聖蹟桜ヶ丘女子高校
放課後、赤みを帯びた西明かりが、賑やかな生徒達の横顔を遠く染め上げる
六限目の数学の抜き打ちテストの疲労に唸りながら、灯と肩を並べて廊下を歩いてゆく
乾いた街は、少しずつ色調を変えて夜を迎えようとしている
selling dayが再結成してから早三日、ついにタイムリミットの最終準備期間だ
思う存分溜め込んだアイディアと能力を手に
唯一の‘縁’を結ぶ為、私達は大作戦に必要な道具を揃えに駅前へ繰り出す約束をしていた
調達、細工、下調べ、偵察
失敗の許されない解放劇を起こす為、私達は危険な戦場へ赴く
「にしてもクラス違うと こういう時めんどくせよーな 」
放課後すぐの校舎というのは意味もなく動きが多い
学業からの一時の解放に、私でさえ茜色の傾く校舎の中で羽を伸ばしたくなる
廊下にはそんな生徒で溢れている
友達と話しながら掃除をする生徒、カバンを持って生徒玄関や部活へ向かう生徒
はたまた帰りの予定に花を咲かせる生徒なんかでごった返している
「教室に行けば済む話でしょ 」
そして私達は、まさにそのどれにもカテゴリーされていないジャンルに属する
だらだらと進み、先にひよりのいる教室に向かう
掃除中だったひよりを外から茶化して回収し、校舎を反対側に歩いていく
有珠と奏のクラスはまだホームルームが終わっておらず、中から先生の声がしていた
三人で廊下側の壁に背を当てて待つ
しばらくして中からイスの引く音が一斉に響き
「お待たせしましたのですー 」
カバンを手に、続々と出てくる生徒の間から有珠と奏が小走りになってトテトテ寄ってくる
全メンバーが揃い、いざ、ようやく下校
――そう思った矢先だった
ふと、さっきまで中にいた先生が、なぜか私達に歩み寄ってきたのだった
「ぁー、お前ら ちょっと待て 」
無駄に細長い顔と長身からゴボウに似て、あだ名が何とも単純にゴボさんと呼ばれる、小田という先生だった
「えっと、なんですか? 」
生徒からは親しみのあるお父さん的な先生だったから、私はつい油断していた
すでに私達が、一度のペナルティを食らっていた事を……
「ぁー、お前ら、また性懲りもなく裏でこそこそやってないだろうな? 」
「や、やってないに決まってるでないかいっ! こんなにいい子に育った生徒達を疑うとはっ、ゴボさん見損なったさー!」
その瞬間、コツリと灯の頭にチョップが振り下ろされる
「馬鹿、すでにお前らは前科あるだろうが というかお前はまず髪の色だ」
冗談半分に言い、ゴボさんは続けた
正直、私はズキリとした、今まで経験上、本能的に何かの罰が来るのを悟った
「いやなぁ、あれだ、なんというか昨日、学校のパソコンに変なメールがきたんだよ 」
だから渋々と、とばかりにゴボウに似た頭を掻く
「メール…でしょうか? 」
「お前らがまた裏で何か問題を起こすような事をしている、なんというか密告みたいな内容だったんだよな 」
(…っ! )
頭に電流が走る
…やられた
先手を打ってそんなことが出来る者がいるとするならば
「確か送り主は、あーと…うん、あれだ‘ガリレオ衛星’とか言うのだったぞ? お前ら心当たりはあるか? 」
「ッ! な、ないですッ 」
その刹那、頭に巡った言葉とゴボさんの声がリンクし、思わず反射的に不自然な声を張り上げてしまう
気がつけば、私はまるでむきになって自分が嘘をついていないと言わんばかりの反応をとってしまっていた
「?なんか怪しいなぁ
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