第20話

何か特別な事が起こりそうな高揚感

いっそ一思いに、何もかも壊しちゃいたい非日常感

両脇にビルが建ち並ぶ大通りを抜け
風に袖をパタパタ泳がせて、油を差したチェーンが爽やかにビートを刻んでいく

徐々に勢力が高校生から大学生とサラリーマン達へと侵食されていく七時半過ぎ

それら型どられた夜を掻い潜るように、塗りつぶすように

この街断トツビリの少女は錆びかけのチャリンコを目的地へ走らせる

その姿には何の縛りも見受けられない

ひたすらにスカッと突き進んでて、ここから私達のターンだと叫ばずにはいられない
外に出て走ってるだけなのに、ただただ、無性に疾走感が身体中を満たしている

――ジャリジャリッ!

何がそんなに良いのか分からないほど、今まさに車輪が踏みつけているこの点字ブロックの振動さえ良いほどだ

色濃い空、むせるほどの空気感、どこまでも行ける車輪の音、ブラウスに染み付いた汗の匂い

心なしか、点滅の黄色ギリギリを渡る彼女も、一回り大きく同じ空気を連れている気がした

そうして、それら全てを包む風の中で、すっと鼻を上げて湿っぽい香りを吸い上げたとき

不意に、明日に作戦を控えた今夜だからこそ、きっと私が行かなければならない’片方が’脳裏の片隅に静かにひらめいた

今日でなくちゃならない

ハル側のカルマの地を知った、今だからこそ、この狭い街の中で解決の糸口がきっとあるあの場所へ

(有珠の嘘、あながち間違いじゃなかったかもね )

正確に言えば、目的としては友達のお見舞いではないのだけれど

(この準備が終わったら、灯にお願いしてみよう )


***

しばらくして、耳をつくブレーキ音が鳴り、車体は時計台の近くに後輪を一瞬浮かせて止まった

「さて、次の仕掛け場所さよ 」

灯が涼やかに言う

「ここって 」
一切何も聞かされていない次の目的地に足を下ろす

前髪を直しつつ、覗くように見上げると

「―ッ!? 」

真正面、灯の声とは正反対に、ひっそりと寂れた四階建てビルがじろりとこちらを見下ろていた

(…なに?、ビル? )

駅前にあるとはいえ、テナントがスカスカの立ち姿には、第一印象の二秒間でも十分なほど、今にも潰れてしまいそうな不気味さと威圧感を私に与えた

そんな訝しい表情を浮かべていることなど置いて
仕事場に乗り込むように、灯はさっさと自転車のカゴから押し込まれた二つの学生カバンを取り出した

灯のカバンの中は、すでにさっき楽器屋で手に入れた有珠の能力を増幅させる‘弾丸一発分’

私の学生カバンも同じ、灯のカバンに入りきらなかったギターソフトケースを三つ下りに、ぎゅうぎゅうに詰めてある

灯はそれを所有者の元へポンと軽く投げ、それぞれ肩にかける

「いつまで見上げてるんさ? 」

「ぁ、ごめん 」

躊躇もなく、ずかずかと灯は一人裏手に足を進めた
まるで一度来た事があるかのような振る舞いだ

ついでに表に止めていた自転車も一緒に運び、防犯ライトもない裏口扉の前に忍ばせる

私は黙ってその後ろに付いていく

一歩先は駅前だというにも関わらず、そこは異様なほど人気もなく、辺りは鬱蒼と静まり返っていた

扉の前には、侵入者を拒むようにタバコの吸い殻が一つポツリと踏みつけられて死んでいる

この上なく不安な気持ちにさせられる

「ねぇ灯… こんなところでも、もちろん明日の為になんだよね?」

さっきから内に増す一物の不安は押しを強め、堪えきれず私の口から飛び出した

小さく身を縮め、本当にこんな場所で明日を変えるのかと、私の頭の中はマ
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まろやか投稿小説 Ver1.30