第11話

「ぁ、有珠ちゃん…っ ぁ あのねっ これはっ! 」

今までにないくらい取り乱してしまう
なんと言い訳しても状況が不利になる一方…

今は真犯人か違うかなんてことは関係ない
…問題は、ただの私みたいな女子高生とは無関係のはずのものがここにあること
目の前に広がる身の丈ほどもある立派な凶器、まぐろの大刀リリス
それが…なぜここにあるのか

昨日のひよりに見つかったもう一つの片割れの‘体温’
しかし、リリスが見つかってしまった今、状況は昨日より格段にまずい…
言い訳が見つからない…

「有珠ちゃん…… 」
有珠ちゃんは未だに横でへたれこみ、体を小刻みに震わせ、リリスを見上げている
顔はまるで、恐怖の衝撃に満ちていて…今にも泣き出しそうな
無理もない、いや…当たり前だ
こんな魚でもない生き物でもないような化け物を、まさか見ることになるなんて誰が考えていただろう
ましてや有珠ちゃんのような…まるで幼い子供のような子が、いきなりこんなものを見たのだから

「ぁ 有珠ちゃん…… 」

…………
とても隠せそうにもない
言葉での言い訳も嘘も口車も、私が得意なわけもなく…

肩を落とし、気持ちが折れかけ
…きっと私しか知りえない今の連続通り魔事件とのこと、一回海で死んでいること、目の前の少女に全てを話そうと諦めかけた

…そのときだった

「…ぁ… 」
泣き出しそうな顔をしていた有珠ちゃんの口から小さな言葉が漏れた

「ぇっと… 」
なんだろう、…何かを言おうとしている

「有珠の大好物ーっっ♪ 」

………
……

(???…)
「…は…? 」

一瞬、この子が何を言っているのかわからなくなる…

「有珠ねーっ まぐろ大好きー 」
いきなり立ち上がり、大きな瞳を輝かせながらぴょんぴょこし始める
「ゆりさんのお家は漁師さんですか? いいなー やっぱり漁師さんのお家だと家族一人にまぐろ一匹とか貰えるんですよねーっ 」

(…なんでだろう )
あれだけ悩んでいた自分は一体…
というかこの子、本物の天然っ子?
「ぁ… 有珠ちゃん 」
「はぃっ? 」
「そんなことよりお風呂…入って来れば? ね? 」
「…ぁ 有珠 すっかり忘れてました 」

さっきまであんなに落ち込んでいたはずの少女は、まぐろを見るやいなや、いきなり小さな子供のようにはしゃぎだした

(そんなにまぐろが好きなのかなぁ )

部屋を出ようとしたときだった
「今度 ゆりさんがよければまぐろ食べさせてくださいねー ではシャワー借りさせていただきますっ 」

「ぅん バスタオルは置いてあるからね」
「ありがとうございますっ」

ドタドタと階段を駆け降り、さっきの泣きじゃくる姿がまるで別人のように思えてしまう

(今度… 本当にお寿司屋さんにでも誘おうかな )
(それにしても、この子は一体… )

生物室初めて会ったときは身なりは本当に小学生のようだったけど、髪は銀色、目は青、肌もありえないくらい純白な色白で
(…だからかな)
無口なツンツンしてそうな誰とも話さないようなそんなキツイ印象を受けた

次に見た屋上で泣きじゃくる彼女は見つけたときは、第一印象で感じたキツイ印象ではなく、本当にか弱い少女のような姿で、私は純粋に彼女を…助けたくなった
そして今、もはや当初感じたキツイ印象はどこへやら…
ありえないほど笑顔でまぐろを語り、しかも異質なあれを見てただのまぐろ呼ばわり…
しかもさすがに漁師さんのお家でも家族一人一人にまぐろ一匹はありえなさすぎる
天然と呼ぶべきか子供と言うべきか

本当に彼女は不思議すぎる…
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まろやか投稿小説 Ver1.30