昼下がりのア然とするまでにフリーダムだった光景が終わって、今は放課後
私たち四人は集まる約束をするわけでもなく、またE組の教室に集まっていた
お昼のときとは違い、今は教室はがらんとしていて、窓からはまた一段とオレンジ色の夕暮れが教室全体を照らしていた
もう夏が終わる…そんなことをどこか感じさせる夕暮れ空だった
この時間にもなれば、学校にはもう部活の人以外は残っていない
そんなほとんどからっぽの校舎の中、私たちはひよりの紹介で、ひよりいわく‘秘密の場所’に案内されていた
その存在があったこともわからないような4階の隅の古臭い地味な教室の前に来た、何にも使われていないようなこの部屋は同じ校舎とは思えないほどひっそりがらんとしてる
ひよりが教室の扉の前に立つと古びた扉に付けられていた鍵を普段からやっているのか慣れた手つきで外してゆく
そしてガカッっと鈍い音を鳴らしながら扉が開く
中に入り、教室の中を見渡せば…やけに埃っぽくどんよりした空間、段ボールの山、積まれたイス、ほかにも年に一回しか使わないような行事用の品々が埃を被って積まれている…その光景は教室という倉庫と言った表現のほうが近いかもしれない
そんなことを思っていると、早速灯と有珠ちゃんは半分以上物置部屋とかしているこの部屋で子供のように積まれた物を物色し遊んでいる
私は、教室の窓を開け一人窓から外の景色を眺めていたひよりのほうに歩み寄る
…少し、お昼休みのときにはあまりにあわてふためいてしまい気がつかなかったが…
「ねぇ ひより?」
…気になったことがあった
「はぃ なんでしょうか?」
「さっき有珠ちゃん…普通にお膝に座らせてたけど…その」
「ぁぁ…はぃ 大丈夫でしたよ」
「あれは…大丈夫だったの?」
言葉が詰まる、口に出しては言いづらかった、…いや、ひよりの痛みを簡単に口にしては言えなかった
「わざわざ…気遣っていただいてありがとうございます」
空を見上げ、ひよりが一人呟くように話し始める
「前にもお話しましたが私は極度の接触障害を患っています」
「…ぅん」
「それは今この瞬間も同じことです…しかし 前にも言った通り さっきのように今は何とかこのくらいまでは回復しましたので」
「…それにお膝に座らせれたのは‘あの’有珠ちゃんだからということもありますね」
「私はこの異質な身体なので 分かるんです…安全な人間か そうでない人間か…」
「わかりやすく言うと触っても大丈夫な人かと言うことですね」
「しかし、たとえ安全な人間であっても 相手側からいきなり自分の思わない、想像しきれない、または反射しきれていない場合に接触されると…もしかしたら今でさえも 灯ちゃんでも有珠ちゃんでも …もちろんゆりちゃんでさえも私はパニックになるかもしれません」
「自分の意識の中ではたいてい大丈夫ですが、無理に相手から気安く触られることには… それが男性や大人の方ですと…自身の意識の内に触ったとしてもパニックになってしまうかもしれません …私の接触障害という病気はそういうものです」
他人事のようにあっさり語ったひよりはそう言うと、そっと私の頭を撫でた
まるで今話していた接触障害の恐怖を自分自身であざ笑うかのように…優しく
今もひよりのその身にまとうぶかぶかの紺色のカーディガン、それが本当に今もひよりを守っているような気がした…
その瞬間、夕暮れとともに気持ちのいい秋風がこの教室を通り過ぎてゆく、それと同時にひよりの綺麗な黒髪がなびいた
「ねぇ ゆり ひよりーっ 」
ひよりと話していると、物を物色す
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