「はぁ…っ はぁ…っ 」
私は走っていた
真昼の町並みをかきわけて、女子高生が一人、全力疾走で学校へと続く道を走っていた
(いつ以来だろう…こんなに人目を気にせず全力疾走で走ったのは )
下手をすれば小学生以来かもしれない
涙が溢れ出ていたまぶたに風があたり、走りぐしゃぐしゃになった髪の毛や首筋に風が通り抜けてゆく
左手に持つ学生カバンを雑に振り、スカートの揺れを気にすることも忘れて
右手のこぶしの中にはさっきまでのメール画面のまま閉じた携帯を強く強くにぎりしめていた
「はぁ… はぁ… 」
気がつけば、私は学校の正門の前に立っていた
まだ久しぶりの全力疾走のせいで胸を締め付けるずきずきとした痛みはあるものの、足を止めるという考えは今の私には思いつかなかった
ただ前へ前へ
ただ私が私でいれる あの空間へ
確かに信じれる、あの場所へ
ちょうど今の時間は、お昼休みの真っ只中だったのか校庭にも廊下にも教室にも生徒で溢れていた
その生徒をかきわけ私が真っ先に向かおうとした場所はいつもの1年E組の教室ではなかった
真っ先に目指した場所
そう… 4階の隅の古臭い教室
ただの直感だった
でも確かな確信もあった
あそこに行けばきっと皆がいると
………
息が込み上げ、荒い呼吸で階段を駆け上がり、4階の隅の教室の扉の前へとたどり着く
相変わらずお昼休みだというのにこの階もこの教室もがらんとしていた…
「…ふぅ 」
あらためて呼吸を調え、教室のドアに手をかけた
(みんな… )
そして…
私は踏み出し、扉を開けた
ガラッ…
静かに鈍い音を震わせながらゆっくりと開いた扉
鼻に伝わる独特の匂い
相変わらずの小汚い物が積まれた物置部屋のような空間…
そして、視界を向けたその先には…
………
窓を開け、カーテンが風でふわりとなびき、真っ白い光が教室一面に降り注ぐその場所
(…っっ )
…いた
そこには二人がいた
驚くこともなく、焦ることもなく、まるで私が来ることがわかっていたかのように
そしてすぐにその二人の声は私に向かって発っせられた
「お帰りなさい ゆりちゃん」
「ゆりさん おかえりなさぃですっ 」
……
(ぁぁ…… よかった…)
ホッとした…安心した
それなのにどうしてだろう
さっきまで泣いて泣いてからからにからっぽになった瞳からは、またしても感情が溢れ出しそうになっていた
心の中で深い深い安心の一息をいれて、精一杯の声で二人に向けて答えた
「ただいま…っ ひより 有珠ちゃんっ」
窓辺に立つひより、そのすぐ横でイスに座っている有珠ちゃん、私の答えを聞いて、ただ二人はそっと笑顔を向けてくれた
けれど…やはり、灯の姿だけはそこにはどこにも見当たらなかった…
(やっぱり…)
そこからは、またいつものように戻り、いや…いつもと変わらない三人だった
「ゆりちゃん 髪の毛 大変なことになっていますよ?」
「ぁ…ぅん 走ってたから 」
窓に映るボサボサの髪をした私の顔
でもよかった
鏡に映る私は、もう、ちゃんと笑えていたから…
そして、光に照らされたひよりの微笑みはあのメール以上に私に安心の気持ちを与えてくれた
「ゆりさんっ これから午後の授業は出るんですかー?」
「ぅーん… どうしようかな…」
正直まだ授業を受けるほどの気力はなかった
授業を受ければ一つ前のからっぽの席をいやでも一時間も見続けなければいけなくなる…
それが…今の私には痛いほどきついものなのだから
(灯… )
心の中で呟くように、叫ぶように滲み出た
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