「灯……っ!? 」
一瞬だった
本当に一瞬だった
「ぁ、灯っ…!! 」
「……っ!!? 」
扉の窓を通して一瞬目の合った灯は
私がそれを灯だと確信したとき、教室には雨が降り続く外の音とともにダンッダンッダンッと灯が階段を物凄いスピードで駆け降りる足音だけが響いていた
………
「ゅ、ゆりさんっ! 今のっ 」
「追ってあげなくていいんでしょうか?」
有珠ちゃんやひよりもたった一瞬の灯の扉ごしの眼差しに気付いていた
「…ぁ……… 」
………
……
こんな場面が前にもあった気がする
灯に私の秘密がばれて、灯がこの教室から走り去って
私はただなにも出来ずに呆然と立ち尽くして…逃げて
「ゆりさんっっ 早くしないとっ」
…あの日から私は
何度も泣いた、何度も灯を想った
それなのに…
一度泣いただけじゃだめなのかな…っ?
私じゃ私は変えられないのかな…っ?
「ゆりさんっ!! 」
(有珠ちゃん……ごめん)
有珠ちゃんの声の先には…、またどうしようもなく、あの日のようにただ立ち尽くし俯いているヘタレな自分がいた
(…っ…っ )
(灯に逢いたい…逢いたいのに…っ)
恐怖や不安が私の頭にフィルターを、足にストッパーをかける
もし追い付いて今度こそ…だめだったら、本当に自分が壊れてしまいそうで…
………
「あっ! ゆりさんっ あれっ…灯さんが 」
(…ビクッ)
窓際にいた有珠ちゃんが校庭のほうを見て指差す
私もその指の差す方向を横目で見る
(……!? 灯…っ!? )
そこには、朝から続く雨に打たれながら、ぐしゃぐしゃの校庭の泥と水を跳ねながら自転車置き場へと走って向かう酷い灯の後ろ姿があった
「……灯… 」
目を締め付けるそのぐしゃぐしゃな灯の姿が私の胸を叩く…
………
……
やっぱりだめだ…私じゃだめなんだよ…
灯…
ごめんね…
…………
………
……
「- また 逃げるんですか? -」
(…っっ…!!)
私が諦めかけたときだった…
不意打ちの如く、後ろからひよりの声が聞こえた
腐りかけていた私はその言葉に慌ててばっと振り向いた
その瞬間
私は言葉を失った
なぜなら
ひよりの右手には
私に見せ付けるようにかざした携帯電話
しかしその画面にはっきりと表示されていた送信済メールボックスの画面
……送信済メール
9/6 雪村 灯
9/6 雪村 灯
9/6 雪村 灯
……
「…ぁ……それ…」
そこには、灯宛ての今日の日付の送信済メールが何通も…何通も表示されていた
まるでそれは、昨日憂鬱な私が泣き崩れるほどに助けられた‘あのメール’たちのようだった
私が動揺していると、私の近くにいた有珠ちゃんも懐から静かにもぞもぞとなにかを取り出し始めた
カチッと一回の開閉音
小さなボタンを押す音
有珠ちゃんの携帯電話
そして、有珠ちゃんもひよりのように私に携帯の画面を見せた
送信済ボックス
9/6 雪村 灯
9/6 雪村 灯
9/6 雪村 灯
(…っ!! )
「ひより…有珠ちゃん…」
「ゆりさんっ」
私がア然な表情をしていると有珠ちゃんが呟くように話し出した
「有珠たちは 昨日みたいにゆりさんがまた学校に来れるようにはいくらでも努力しますっ、でも…灯さんだけをまた元気にさせてあげられることはできないです」
「………」
「それができるのはたぶん世界中たった一人、ゆりさんにしかできませんっ」
「……」
「残念ですがゆりちゃん 私たちにできるのはここまでです」
有珠ちゃんに続けてひよりが喋った
あぁ、やっぱり…
やっぱりこの二人には勝
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