(今 何時頃だろう )
私と灯は静かにベンチに座っていた
辺りには街灯も点き、背後には賑やかな駅前の光が感じられ、日中はまだまだ夏の暑さが続いているのに夜になると気持ちのいい夜風が髪をなびかせてゆく
頭上には雲一つない夏の澄んだ星空が広がってゆく
地上のからっぽでぐちゃぐちゃな街とは違い、今日も空は、言うならばまるで、きらびやかにちりばめたビーズのような、とにかく本当に綺麗な星空が私たちの上には広がっている
空を見ていて、ふと横目で視線を左に向ければ、同じように空を眺めている親友の姿があった
灯の視線は頭上に広がるこの綺麗な蒼い空に吸い込まれるようにそっと注がれている
お互いは同じようにただただ夜空を見上げているだけ
ただいつもと違うのは
灯の右の手の平がそっと私の左の手に添えられていることだけ
そして、いつもよりちょこっとだけお互いの距離が近いだけ
ただそれだけが、いつもとはちょっとだけ違う…
けれどなんだろう、それが今の私には夏の季節のワクワクするような、でもどこかそっとじっとしていたいような
なんだか、そんな不思議な気持ちが夜風とともに胸をじんわりとさせていた
しばらく空を眺めていて、ふと灯が小さく口を開いた
「…この宇宙の中であたしたちみたいな孤独や苦痛や悩みや涙にはどれくらいの価値があるんだろうね 」
「ぅん 」
この未知の宇宙の何億光年と続いた先には、私たちのように孤独を感じ空を想う誰かや
私たちを感じてくれる誰かが同じようにこの空を眺めているのだろうか…
私がもし今 内に秘めている痛みを叫んだのなら、何億光年と超えたその救難信号を、そこにいる誰かは拾ってくれるのだろうか…
お互い視線は空に向けたまま話しを続けた
「ねぇ ゆり? 」
「…なに? 」
「星空って綺麗だけど…なんか切ないよね… うまく言葉にはできないんだけど…」
「ぅん なんとなく灯の言いたいこと わかるよ 」
「…でもさ 」
「?? 」
「あたしたちの生きる地球には万有引力ってのがあるでしょ? 」
「ぇっと… いきなりなんでそんな科学的なこと? 」
いつもふわふわな灯がいきなりそんなものを話しに出したのには少しだけ驚いた
「私はこう思うんだよね… どうして神様は地球を作ったときにそんなめんどくさいものも一緒に作ったのかなーって 」
いきなりの灯の難しい質問に私は首を傾げた
「ぅーん… 天文学者じゃないし科学者でもなぃし …灯はどうして?? 」
「あたしは それはきっと たぶん…この広い狭い地球の中で誰一人… 独りぼっちで悲しまないように、すべての物体がお互いを引き合うような力なんかを神様は作ってくれたのかなって思うんだよね 」
‘この世界で誰一人 独りぼっちで悲しまないように’
それはまさしく灯らしい考え方だった
「ちょっと…くさかったかもねっっ 」
「ぅぅん 私はその考え方好きだよ 」
「なははっ ありがとぅさー 」
…………
それから一変、灯は声のトーンを急に変えて独り言のように呟いた
「 …でも本当にいつか 心の底からこの空を綺麗だなって、生きててよかったって、そんなふうに思えるようになりたいな…」
「…ぅん そうだね 」
…………
………
穏やかな夜風と重ねられた灯の手の平から伝わる温もりだけが私たちの時間の中を流れていた
「そういえばなんだけどさ… 」
「…ん? 」
「さっき… その…ゆりに大好きだって言ったじゃん? 」
「ぅん 」
「ぁー …で、ぇっと… 」
「…?? 」
お互い視線は相変わらず夜空に向いたまま
けれど、
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