第3話

サプライズ
朝のホームルーム前の時間、笑顔でそう口にした灯

***
-現在-お昼休み-

優しいセミの鳴き声が響く蒸し暑いお昼時
校庭も校舎の中も走り回る生徒の声でいっぱいに満たされた昼下がりの夏模様

現在、私はそんな和ましい風景とは場違いに呆然と教室の前で立ち止まってしまっている

………

そうなった理由はほんの2分前
私が灯に言われた通りあの教室の前へと来たことに始まる

こんなお昼休みでさえ誰も寄り付かないぽつんと孤立した4階の端っこの教室
お昼休みをちょっとだけ遅れ気味でその扉の前へと私がたどり着いたときだった
ふと目線を上へ向けると、そこには灯の言うサプライズと呼ぶべきものが私を待ち受けていた
先週までただの物置部屋同然だった教室、その上に付いてあったくすんだ空の教室プレート

しかし現在、私の見たそこには
まず書かれているはずのない文字が四文字刻まれていたからである

‘軽音楽部’

そうはっきり今の私の目には映っている

( ???… )
その文字を二度見、三度見、見上げたまま頭の中をはてなマークいっぱいで首を傾げる一方
またあの灯の口にしたサプライズと言う言葉や突拍子もない考えに薄々感づいていた

薄汚れた廊下に降り注ぐ初夏を思わせる日差しを背中に浴びながら
とにもかくにも、目の前の滑りの悪い教室のドアを開けずには始まらない
嫌な汗を手の平ににじませながら扉を開ける

相変わらず埃っぽくどんよりした空間、段ボールの山、積まれたイス、行事用の品々が埃を被って積まれている
窓から不規則に照らされる太陽の光りの中で、掃除と呼ぶべきか整理と呼ぶべきか
せっせと片付け作業をしている三人が視線に映った

「灯ー 言われた通り 来たんだけど? 」
高く積まれた段ボールを下に降ろしていた灯に声をかける

「おー ゆりー遅かったね 軽音部へようこそー♪ 」

(……… )
「…あの 灯? 主旨がまだイマイチよくわからないんだけど? 軽音部って?? 」

「なははっ よく聞いてくれたっ」
灯の横にはひよりと有珠ちゃんがなにやら段ボールの中を物色していた

「土曜日にこの4人でウィッチを捕まえるって約束したよね? 」

「ぅん、したね 」
「その始め、最初の第一歩がここ! みんなの思い出のここを活動拠点にすることにしたんだっ 」

(…??? )
「たしかに…教室とかじゃ無理っぽいのはわかるけど でもここは… 」
見渡せば教室の敷地のほとんどには段ボールとイスに占領され、狭い以前にとてもなにかをできる場所ではない
全開に開けられた窓から見える4階からの景色と風が唯一癒してくれる空間

「それでね この教室を昨日、学校に来て先生に借りられるか話したら無断で生徒が教室を使うのはいけないって言われたから 」
「ぁ、ぅん 」
私の言葉は完ぺきにスルーされ灯は普通に話しを進めた

「どうにかなんないか話したら、部活申請規定の四人がいるなら部室としてならこの教室借りられるって言ってもらえてー、よくわかんないけど適当に渡された申請書に全員の名前書いて先生に出したらギリなんとかOKしてくれたんだよねーっ んで、ついでにBUMP繋がりの軽音部ならみんなもOKかなーって思ったのさ 」

珍しく長々と話した灯は近くにあったイスに立て膝でぴょこんと座った
「さすがにこんな教室を部室にしたいって言ったらめっちゃ驚かれたけどねっ なははっ」

「相変わらず すごぃ行動力だね… 」

でもたった一日で
たった一日で、そこまで
自分のしたいことにはためらいもせず、キラキラ
次へ
TOP 目次
投票 感想
まろやか投稿小説 Ver1.30