第9話

放課後の廊下に響く足音が四つ
意気揚々に進む学校という枠からこぼれ落ちてしまった省られ者のグループがひとつ

その途中、周りの傍観者からの上から見下された目線と、冷めきった目で笑いかけるひそひそ声が胸に突き刺さる…

(笑いたい奴は笑っていればいい… )
だって、そうやってなにもしないのは、この社会と街に賛成している事と一緒だ

お前たちみたいな汚い言葉に操られて魂を侵された人間になんてきっとわからない

私たちみたいな…、こんなにくしゃくしゃな涙を流す痛みをまだ胸に大事に大事に持っている人間の声なんて

嫌なんだ…っ
そうやって、流されて妥協して、そしていつか忘れて…なにもしないでへらへら笑うなんて

一週間前の私は今の周りにいる傍観者たちのようだった
でももうあの冷めきった人間にだけは戻りたくない…
だから変えるんだ
自分たちの身なんだ、自分たちで勝ち取るんだ

この9月の夏のような彩りを
この仲間と
この場所で

遠くない、一緒に笑えるようになる未来のために


***
木漏れ日が頭に注ぐ桜並木道の街道を進む

春の桜とはまた違い、夏の陽を浴びる桜の木々は、青々とした濃い緑色の葉をその枝に一身に付け
右に、左に、そんな桜の木がつななり生い茂りトンネルのような形を街道に作っている

せわしなく街を歩く人たちは白黒に見え、私達が踏んだ道だけがはっきりとした色をつけてゆく

夏の夕焼けに潜む街、強い日差しを追い越してアスファルトに鳴り響く靴底の音

赤色灯を点灯をさせたパトカーが不意に耳をつんざき、右を通り過ぎる…
続けて走る白バイの視線が私達を捉える

(今更、なにを怖がる? )

反抗するように大きく腕をかき、ビルの間に吹く風をきり、威風堂々と前を突っ切り、この街を駆け歩む

小刻みに震える脚なんて気にしない…っ

途中、あの川沿いのベンチに続く小道を見つけて実感する…
いつかくじけたあの日の先に私達がいる事を
あの日から私は、私達は、ただ無意識にいつの間にか熱くなっていて

眠れない夜を通り抜け…
一秒一秒をつむいだ今に
その小道を今、胸を張って通過する!

(不思議… )
確かに私達は絶望のど真ん中に近づいているのに…、前の三人とも目がキラキラ光ってる
それは多分、私もきっと

ウィッチもN.M.C.も変わらず強敵だ…

でもさ

‘四人一緒なら絶対に負けないんだ 最強なんだ’
不思議と頭の中でそのフレーズがループしている自分がいた

ゆらゆらと葉の揺れる街道の桜並木のトンネルを抜けると

(……ゴクッ )
広く高く平然と待ち受ける駅前の姿が、私達の前に堂々と迎え撃った…

それは、小学生の頃からいつも見てきた風景で
そして、今日初めて見たいつもとは違う風景だった

駅の真ん中に高く設置されている時計台はちょうど5時20分を指し

夕暮れ空、まばらに散る羊雲の隙間からしみるほど茜色に染まる街
気だるそうにぶらんと垂れた電線にカラスの群れが羽を休め

ガタンカタンとどこか懐かしい音の響きと振動に、今日も京王線の電車には帰宅帰りの働き者達の疲れた眠気で溢れているはず

私達が立ち止まるスクランブル交差点の視界の前には、買い物袋をぶら下げた親子が見える

俯き黙りこくる足早な大人たちにまじって、半ズボンで走り抜ける小学生達の姿もちらっ映り
寄り添い帰り、内緒のように手を繋ぐ恋人のほころびは、やけに目をひいた

私たちと同じ学校の制服を着た女子がすぐ横のコンビニに入り、近くの男子高の男子たちが紙パックの飲み物片手に、やけに汚れた大きなカバン
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まろやか投稿小説 Ver1.30