買い物を終え、四人はまた外の戦場へと足を進める
駅ビルから出て、二階の駅構内の来た道を戻り、また改札を通り過ぎる
肌を決して誰にも触れさせないように人込みの構内を抜け、下りのエスカレーターに続く吹き抜けの通路に差し掛かったころ
ちょうど視界に空が映るころだった
「!? まじかーっ!? 」
先を小走りで進んでいた灯から急に驚いたような声が聞こえた
「「「…??? 」」」
あまりにとっさだったその灯の声に私たちが近づくと
そこには ――
(嘘… 雨? )
おもむろに見上げたそこは、滝のような土砂降りの雨が降っていた
バケツをひっくり返したような水量
しかしそれなのに空のてっぺんは晴れている、未だに暑いくらいに晴れている
通り雨…夕立と言うべきだろうか
それを見ていると、まるで街の汚れを洗い流しているようだった
( きれぃ… )
ヒカリの粒たちは茜色の眩しい光を当てられて、小さく反射しながらソラから降り注ぐ
そのあまりに珍しい光景に、四人の女子高生はただただ無防備に空を見つめているだけになった
決まりきった毎日の手付かずの一日に、もし今のこの景色を見たとしても…私はこんなにも綺麗だと思えていただろうか?
ただちょっと夢や希望があるだけで
一歩歩いてみただけで
世界はこんなにも綺麗なものなのだと実感できる
せわしなく動き回る帰宅ラッシュの人込みの空気とは場違いに、なぜそんなにも嬉しいのかも分からないほど
ただただ…その心の底から溢れる実感の幸せが堪らなく嬉しかった
(きれぃ… )
「本当に綺麗ですね 」
「写メ 撮ろっかなー 」
「ぁっ、有珠もですっ 」
2階構内の吹き抜けの入口で立ち止まりしばしばの雨宿り
…………
しんしんと滴る雨の音と忙しい駅のアラームだけの世界
じめっとした熱気のような雨の匂い
「ねぇ♪ ゆりー 」
横でずっと空を眺めていた灯がいきなり抱き着いてきた
「?? なに灯っ? 」
「行ってみなぃー?? 」
「行くって どこに? 」
灯はいつも以上にうれしそうにはしゃいでは声をはる
「やっぱり 行こうよー 」
「だから行くってどこに? …なに??、この雨に!? 」
「おぅっ 正解! 」
「ぃや…、 濡れるよ? 」
「当たり前じゃん 」
(……)
「でもね…? なんかさ 今、よくわかんないんだけど めっちゃくちゃ楽しぃーし 」
単純な灯のその笑顔は言葉通り、恥ずかしいくらいに幸せで溢れているようだった
夕焼けに照らさせた幻想的な雨粒を見つめながら、横にいたひよりと有珠ちゃんの顔色を伺う
「ふふっ 私は大丈夫ですよ 行きましょうゆりちゃん 」
「ゆりさん きっと楽しいですっ 」
待っていたかのように、二人ともカバンの中の物を雨に濡れても大丈夫なように器用にビニール袋で包むと、準備万端のように手を差し延べた
(…… )
昔なら、青春くさいことなんて馬鹿馬鹿しくてきっと笑っていたと思う
夕立を走って帰るなんて…青春ドラマじゃあるまいし
でも今は ――
(どうしてかな)
冷めた考えとは反対に、その差し延べられた大切な仲間の手に答えようとした、
まさにそのときだった…っ!
うかつにも
私は前から猛スピードで走ってくる男子高校生の存在を視野で感知する事ができなかった…
突然、瞬間的に2秒 1秒 と前に迫ってくるモノに気がついたときには
次の瞬間
ドンッッ!! ―― と
タックルのようなその鈍い激しい衝突音と共に、細い私の身体は意図も簡単に 二歩後ろの床に倒れ込んだ
冷たい駅の通路
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