第12話

-9月10日-(水)-


「ふぁ〜 」
愉快な大あくびをこかした私の口元

そーっと薄目で開くと、その先には青があった

「そっか そうだったんだっけ 」
寝起きながらにひとり呟き思い出した事
昨日、私たちが確かに戦場を駆け抜けた事…、歩き出した事
「昨日 本当に始めたんだよね 」

少しだけベットに横になったまま、その編み戸越しの空に向けて右手をかざす
手のひらに舞い降りた光の粒が指の間から木漏れ日みたく瞳にかかる

ベットから起き上がって朝の眩しい日差しを透かした半袖のブラウスを腕に通す

制服に着替え終えて部屋を出ようとドアノブに手をかけたときだった

(携帯… )
ふと目に入ってしまったぽつんと机に置かれた、昨日拾ってきてしまった青色の携帯電話…
(なんで拾ってきちゃったんだろぅ )
朝からうじゃうじゃした考えはしたくないけれど、どうしても昨日の夕立のときのことが頭をよぎってしまう
メールも着信もないまま、その携帯はただその机の上にひっそりと切なげに置かれていた…

「体温… 」
ボソッと口にしたその言葉だけが、広いようで狭いこの街のウィッチと私だけを繋ぐモノだから…
もし、この携帯の一つ向こう側に狂気的な犯罪者と繋がっているとしたら…?
もし向こう側に私の顔が知られていたとする場合…?

ただだとしても、それが私の思い込みでただ簡単に落とし物の場合だとしても

私は…、
(この携帯を届ける事も捨てる事もできない )

「はぁ、やめよう…今は忘れよう 」
自分なりに、慣れないなりに気分を変え、私はドアノブをひねった

………

一階の洗面台の鏡の前で口に歯ブラシをくわえながら、くしゃくしゃの髪をアップにしてポニーテールを作り結う
もういい加減ポニテにも慣れたものだった

リビングに戻ると、テレビには浮かれた天気予報士が今日も真夏日の天気が続くと語る、それを横目に見ながら私は適当にあった味のない食パンを立ったままかじる

「…暑ぃ 」
天気予報通り、ひょこっとリビングの窓を開けて覗いた空には、毎日のことだけれど、今日もその青い空をおびた光る太陽が悠々と広がっていた

残り一切れのパンを口に突っ込んで学生カバンを手に持つと、すぐさま玄関で履き慣れたローファーに足を通し玄関を開けた

早くみんなに会いたいっ

そう思う気持ちだけが直射日光降り注ぐ通学路にでさえも無邪気に足を進ませた

………
……


首筋にうっすら汗をかきながら学校の正門の前に着いたときだった

「?? 」
ふと、信号機一つ向こうのひまわり畑の横にあるいつものコンビニを見る

(ひより? )

何かの雑誌だろうか、何やら熱心に立ち読みをしているひよりの姿があった

相変わらず変わるのが遅くてじれったい信号機を一つ渡る
緑と黄色が広がるひまわり畑の滴る草にセミの抜け殻をひとつ見つける

ただそんな日常が、不意に嬉しく感じる

iPodを耳からそっと外して、私はひよりのいるコンビニの自動ドアをくぐる

すぐに効き過ぎなくらい涼しいクーラーの冷気が身体を包み込んだ、汗をかいていた私の身体には余計に気持ち良く感じる
(ふぁ、涼しぃ〜 )

そしてそんなどこにでもあるような小さなコンビニの雑誌コーナーに朝から一人嬉しそうに雑誌を読んでいる少女はいた

いつも私達の前では一番大人な表情をしているひよりが、今はまるで子供のような表情をしていた
その光景に、どうしてだろうか
知らなかったひよりの素顔に少しだけいたずら心が芽生えてしまったのだ

雑誌を読むひよりに気がつかれないように後ろか
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