第16話

―― カチカチカチカチカチッ

勇気に満ち足りる細い指先が慣れた手つきでキーボードを打つ
パソコンの画面には打ち込ませた文字たちが小さくズラリと細々しく並ぶ

その光景を前に、言葉にならない胸の高鳴りとそれを繋ぐような恐怖感が身体の内側で脈を打つ…

けれど目に映る光景は全て本物で…、ひよりが去年に本当に確かに行っていた世界だった

……
「このNAMECOのサーバーにクラックをすると言っても、ネット自体のセキュリティのプログラミングを管理しているのは人間ではありません 」

ある蒸し暑い夏の夕方のこと
キーボードを打ちながらにひよりがいつもの優しい口調で話す

「プログラムが正当に適切に管理させれいる場合に、もし想定されていない場合や事態、もしくはプログラムに欠陥がある場合を除いて、コンピューターに不適切な条件付けを認めさせることは至難、通常はほぼ不可能というのが原則がです 」

「ぇ、じゃぁ…どうするの? 」
「なのでこれを突破する方法は」

「故意に極端な負担をかけて先方のコンピューターをダウンさせる方法か、まだ知られていないバグを利用して裏から不正なプログラムを潜り込ませる」

「いわゆる‘セキュリティーホール’とよばれるものを悪用する方法です 」

(どうしよぅ… )
もう…ひよりの言っていることがわからなぃ

「しかし、どっちにしてもこれは不正な通信であると先方に認識されれば、通常はそこで接続を拒否されてしまい、おしまいです 」

……
「その原則をふまえたネットの世界の中で、私達が行おうとしている‘クラッキング’の最終目的は、ハッキングとは違い、さらにその上の管理者権限を手に入れ、そのサーバー内においてあらゆる行為を可能にすることです 」

「さ、さすがウィザードさね…、スラスラ普通に言ってることがめっちゃ犯罪だ…」
「ふふっ、はぃ、だって私は犯罪者ですから 」

笑顔でひよりは…軽くそれを口にした
目も当てられなかった酷い過去も…それを引っくるめて、ひよりは笑ってのけた

「どんなに不正な通信でも、どれだけ力任せに突破を試しても、その傷跡はネットには必ず残ります、ログやどこのサーバーを経由して通信をしてきたか痕跡、偽装を試してもほとんどの場合は見つかってしまいます 」

「コンピューターのハッキングとは…、アニメやドラマほど簡単にできるものではありません…クラックなら尚更です 」

「でも、だからって もし見つかったら…私たちは終わり…なんだよね?  出来るんだよね? それが‘ひよりなら’」

「はい、ウイザードは‘出来ると思うから’できるんですよ‘出来ないことを’知りませんから…だから ‘出来ます’」

「ですからまず始めに、そのターゲットの情報を得るために、提供されているインターネットにおける様々な情報サービス内において、合法的にその情報を調べます 」

――カチカチカチカチカチッ

またひよりの指がキーボードの上をせわしなく動きまわる

「その情報とは、そのサイトに通じる、ホームページ、メールアドレス、アプリケーション、電話番号、所在地、IPアドレスなど 」
たちまちパソコンの画面に膨大な量のWebページが別窓で生産され表示されていく
「うわぁ…」
正直私たちには…これだけで意味不明の行動だ

「次に、相手のサーバーがどのようなサービスを動作しているのかを探査、スキャンする段階に入ります」
「スキャン?? 」

「しかし通常のスキャンを行っていた場合、正しい接続となるため、スキャンされた側にはログなどのスキャンの痕跡が残っ
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まろやか投稿小説 Ver1.30