第18話

日も落ちかけた夕暮れの帰り道
校門の左右に建つレンガ積みの門柱で少女は足を止める

夕日に染まり俯き立ちふける少年
ザッと…ローファーとアスファルトが擦れる鈍い音がした

「…たくみ… 」
気付いた少女は口ごもりに言う…
無駄に取り繕ったように顔を俯かせ前髪を伏せる

カナカナカナ――
辺りの林内から物悲しさを感じさせる鳴き声
気温も下がり、袖に初秋の気配を伺わせる涼しい風がスルリと通り過ぎる

(……ひより )

日暮れ空には低くぼんやりとだまになったモクモクの積雲
その抽象画のようにぼやけた淡い灰色がどこか寂しく空に浮かぶ
灰色に包まれた一日がまた沈むように、夕焼けが小さく遠くの西の空を紅く染めていた

どことなく寂しいそんな風景が、瞬きをするたびに形を変えていった…

(……… )
前の二人の関係は、こんな重苦しい様子を見せられればどれだけ鈍い私にももちろん想像はついた

ぎこちなさそうに立ち尽くす二人の後ろ、置き去りにされた私は…
そのまま通過して帰宅出来るわけもなく

静かに…
自分なりの気を使ったつもりで、辺りの夕陰に身を離した

……
和らいだ風が緑を揺らすと、草の青い匂いが鼻を伝う
近くの木から響くひぐらしのカナカナ声がうっとうしくて、今の二人の会話も姿も確認することが出来ない

………
だから私は、一瞬だけ目に映った今さっきの光景を鮮明に思い出そうとした

(たくみ…)
ひよりがそう呼んだ男子の制服は、確かウィザードで調べたあの駅向こうの聖蹟桜ヶ丘男子高校の制服だった
高い身長にスラッとした華奢な細身、ワイシャツをズボンの中にしまって、ショートの真っ黒いストレートの髪がかっこよくて
真面目そうな印象だった

―――

………
……

カナカナカナ ――

(…… 私が緊張してどうするの…っ )
鳴り響くセミの音に、意味もなくそわそわ落ち着きなく辺りをうろちょろ動く

……


***
(もぅ…5分くらいかな )

二人の確認も出来ずにぼーっと陰で突っ立ったまま
まだ話しているのか、もしかして二人で帰ったりしたのか
焦れる気持ちを抑え切れずにそーっと校門のレンガから覗こうとした
(……ゴクリッ )

まさに そのときだった…!

瞬間的にバッと何かが私に覆い被さるようにして前を走り抜けた
(…ッ!? )

慌てて校舎側を振り向いた時

(ぇ? … )
紺色のカーディガンと長い髪をくしゃくしゃに揺らし走る人の姿
紛れも無い…

それは‘ひより’だった

原因不明の事態にとっさに校門のほうも振り返って見る
……が

そこにはさっきの男子の姿も消えた後、まるで何事もなかったかのように静かな町並みが佇むだけだった
チカチカと音を立てながら点き始めた電信柱の街頭の灯りだけ

(違うっ それより ひよりが…っ )
あまりにいきなりの急な事に思わず今の現状の理由にも困惑しながら、私も校舎へ向けて走り出した

「…… 」
肉眼で暗い生徒玄関を確認する

蹴っ飛ばしたかのように雑に脱いだローファーがポツリと二足
ひよりのロッカーには上履きが入ったまま…

「ひより… 」
あのひよりが素足のまま、汚れた廊下を走って行く校内の場所…

(あそこしかなぃ… )

うっすら不気味に暗い階段を上る、異様に静かな情景に自分の足音でさえ不安にさせる…
そして、ひよりの今の顔が怖かった…

4階に着いて、軽音楽部部室の扉を開ける
キィ…と鈍い音を校内に響かせる

(扉が…開いてる )
ひよりがさっき閉めたはずの扉が開いていた

「ひ…より…? 」
顔だけをひょっこ
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