第20話

-9月11日-(木)-

タイムリミット当日まで

残り -20日-

―――
「ん… 」
窓からそっと、柔らかい銀色の朝陽がまつ毛に伸びて私は目を覚ました

夕べはあのまま編み戸も開けて、あの携帯も辺りにほおり投げて眠ってしまったらしい

「ふぁ… 」
ため息に近いあくびをこぼして、まだ残る眠気に夢見心地でベットの上にぼーっと座る
カーテンがそよ風にパタパタとなびき、光を誘うように揺れているのが見えた

その招かれたぽかぽかしたぬくもりが気持ちよくて、ついまた枕に頬を擦り寄せてしまう

そのときだった
頭に何か固い物が当たった
(?? )
ふと目線を斜め上の枕もとに向けると、昨日のあの一連の出来事‘携帯電話’が無造作に転がっていた

起きたて早々に、こめかみにシワを寄せる…

なぜならその理由は
携帯のサブ画面に

‘1件の受信メール’を表示していたからである…

(…受信… )
一瞬凍り付いたような空気が部屋中を走った

心臓をキリキリと締め付ける嫌な感じ…
その携帯を静かに右手に拾いあげ、ぎこちない手つきで開けた

戸惑いながらも…、紛れも無い私宛ての、私に向けられたメールをひらく

-本文-
「すみません、拾っていただきありがとうございます、その携帯は弟のですが今は自分のです  あの…出来れば返していただけますか? 」

―どういうことだろう―

(…自分の…携帯 )
一連の恐怖を沸き立てるような率直でストレートな内容が滲み出る

ただ重要だったのは――
私が話していた人物は‘美弦’なんて人じゃなかった事だ
私と話していたのは、去年病院で出会っていた‘春貴’という人物だったという事

(…春貴 )

けれど…冷静に考えて 普通、弟の携帯電話なんかをプロフィールも変更しないで、あまつさえそのまま使うだろうか?

そしてさらに
この人は前のメール文からも‘返してほしい’という文脈は…警察を通さずに、きっと私との手渡しのことを言っているに違いない

最悪だ…怖い、恐ろしかった

ただのメールだ、ただの文字を読んだだけだ
それなのに…
これほどまでに…

まるで後ろから鈍器で頭を殴られたかのような強い衝撃を受けていた

過剰に脳裏に黒く加速するそれは
昨日感じたウィッチに対する痛みがぶり返してきているようだった

私と一昨日ぶつかったのも…たぶん春貴
体温からの違和感
去年の病室の謎、メール文の仮説

こんな素人の推理でさえ、信じがたいくらいにそれらは綺麗に連続通り魔としての理由に縦一列に揃っていた

ただの恐怖感なんかじゃない…身の危険を感じる危機感だ


――疑惑は確信へ繋がった

半ばパニックになりかけ、一気に心拍数のあがった私は、その証拠があるかもしれない場所

受信送信ボックスに手を出そうとした

覗き見ようとしたその瞬間

(…はぁ はぁ )
しかし冷静に…
だからと言って誰かの他人の生きてきた記録や思い出に、土足で読み散らかすのは…理由にはならない気がした
さすがに違う気がした

だって、私なら…他人に、灯やひよりや有珠ちゃんとの大切な話しや痛みを語り明かしたメールがあったなら、それを顔を知らない人間に覗かれたら

…悲しいに決まってる

ただ一度、胸騒ぎの響く胸に手をあて
(さすがにそんな最低行為だけは )
ゆっくりと携帯電話を閉じたのだった

すると、額のうっすら寒い汗は残ったまま、何事もなかったように静かな朝が戻ってきた

………

(…… )
でもそうだ…この小さな画面の向こうに
‘確かにウィッチがいる!’

(ぃ、いまは置
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まろやか投稿小説 Ver1.30