第22話

-放課後-

秋風通る夕暮れ前の4時過ぎ、部活のない生徒が下校の準備や生徒玄関へ向かうさなか
今日これで何台目だったか、パトカーの赤色のうめき声が校門の前を通りすぎる

「はぁ… 」
自分でも思ってもみなかった程の重いため息が落ちる

理由は一つしかなかった

一日中…だ
今日一日中、私達が今まで頑張ってきた事すべてが他の生徒に暇つぶしみたくネタとして話されていた

その張本人のすぐ横で
全否定して笑う者、それを軽はずみにくだらないと携帯をいじりながら小ばかにする者、言葉にも戸惑うほどの表現で罵声する者
人に真剣に嫌われるということは、身を裂かれるようにしんどい

問題は山積みで、見れば見るほど進めば進ほど苦しく追い込まれる
本当に全てを次から次へと文句を言いたくなるほどまでに

見事にボーダーラインを踏み散らかしたあげくに見た世界は
想像を超え辛いもので

またそんなため息が増えるかもしれない、また泣くかもしれない、またメールもくるだろう

窓の外を覗けばお昼過ぎからどんよりと厚い雲がぎっしりかかった空が広がる
罵声の隅にまだお昼休みの演奏の余韻が僅かに残る私を横目に、次の作戦は始まろうとしていた

現実を閉ざし、また確証のない危険に自ら足を踏み込ませる
青臭い理想を振りかざす

‘-selling day-’
苦しくても心細い不安の中で、それが死体の私の、くだらない馬鹿の唯一の活路だから

残された時間
結果を間違ったモノにされるの前に
切り開くのは誰でもない、自分達だ
本気を出せる場所がある、期待以上のえりすぐりの仲間がいる
だからこそ、作戦は怖くてワクワクする
ネガティブに不安な心と怯える脈に命令に近い衝動を噛み付かせる

最後には見事必ず笑ってやる

行くんだ
あの日約束した場所まで

そう自分に伝え聞かせると、また口元までワクワクしてる自分が完成する

………
不気味な空気に浸る孤立した教室
相変わらずこの作戦前の緊張した空気は苦手だった

「‘作戦名 スイミー’!」
一人黒板の前に立つ灯の声が大気を揺らす

(スイミー? )
イスに座る私達三人は、授業以上に溢れかえった黒板の文字をピリリと目に映したたき付けていた

「スイミーとは あの有名な絵本のスイミーの事でしょうか? 」
隣に座っていたひよりの声が灯を問う

「さすがひより 当たりっ 」
「絵本? 」
「スイミーってのはさ、その絵本の中の小さな魚の名前なんさ 」

そのすぐ後に説明口調で灯は話し始めた
「周りの魚はみんな赤い魚だったのに、スイミーだけは真っ黒色をした浮いた魚だったんさ 」

「… 」
一瞬だけ有珠ちゃんが視線をピクッと震わせた

「んで、しかじかザックリ、 大きな魚に仲間が怖がることなく自由に海を泳げるようにする為、その仲間みんなで集まって赤い大きな魚のふりをして泳ぐことを提案するんさ 」

「そこでスイミーは自分だけが周りと違う黒い魚で、でもだからこそ 自分にしかできない‘目’の役割になって  それで見事大きな魚を追っ払う、な感じの物語 」

「ぁ、そういえば 小学校の教科書に載ってた気がする 」
どこか安心する灯のザックリした説明に、ぼんやりとそんな話があったことを思い出した

「でもどうして その絵本が作戦名なのでしょうか? 」
すかさずひよりが灯に質問する

「それはなー、今日これからの作戦を‘有珠’に全く同じ役割をしてもらうからなんさ 」

「ッ…ぁぅ?! 」
不意打ちのように驚いた拍子に有珠ちゃんの声が裏返る

少しだけ、私には作戦を聞かなくても何と
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