放課後の開放感にさらされながら私達は雨雲に閉ざされた街へ飛び出した
九月の五時とは思えない不気味な暗さに微かな明かりが不安定に揺れる
校門を抜け、変わるのが遅い信号機も、いつもの小さなコンビニも、その横に広がる青々と染まったひまわり畑も抜ける
駅に続く国道の並木道、両脇に沿うアスファルトの歩道を進む
広い道路までトンネルのように覆い被さり茂る木々を見上げると、綺麗に染まった緑が風に揺られて葉の擦れる音がする
今にも雨が滴り降り注ぎそうだった
「じゃあ、有珠 まずは―― 」
左を向けば、自転車を押す灯と有珠ちゃんが小さな歩幅を合わせながら一枚の紙を見てこれからの詳細をしっかりと話している
迷子になった理由、どこの小学生か、身内や自分自身を小学生に仕立てあげる設定の嘘
入った後に上手に日時を聞き出すために質問すること、それから危ないときの回避方法
とにかくたくさんの内容を有珠ちゃんに説明し焼き付けさせているようだった
後ろを向けば、当たり前のように注意をはらって前後から来た人を慎重に避けているひよりの姿があった
普段は見られない、ひよりの日常の痛みの象徴ともとれる無意識の行動だった
だからこそ…胸の奥に切なく響いた
前を歩く私達と同じ制服を着たグループが恐らく私達とは違う本来の目的で駅に向かってちぐはぐな足音をアスファルトに鳴らせてゆく
何種類もの学生が一日を終わらせ家に帰る時間、この前に駅前を偵察したときのように聖蹟桜ヶ丘駅へと進む
「ぁ、そこ曲がってー 」
そして灯の一声でいきなり進路は右へとそれる
人と警官がひしめき合うスクランブル交差点とウィッチの犯行現場がある駅を避けるように、一歩手前の人気の少ない小道を選んだ
するとすぐに、前にずぶ濡れになって帰った線路沿いの道に出た
砂利っぽい小さな踏み切りを渡る
視界の両脇には黄色と黒の模様、手前には斜めがかった踏切注意の看板がかけられていた
途中、真ん中あたりで焼けた線路の錆びた臭いがした
こっちの町並みは実はあまり歩いた事がなかったから新鮮だった、まさに本当に街を冒険しているみたいに
それから数分、線路沿いを曲がって今度は少し上り道になった大通りをさらに直進
偶然通りかかったコンビニの扉から漂ってきた涼しい冷気の誘惑にふと足のスピードを緩めようとしたりして、少し残念に横切る
テクテク、さらに深まった掻き曇りの空と睨めっこをして、雨はもう少し待っててと短いお願いなんかもしてみる
ブラウスに少し汗が湿ったころ、ようやく駅向こうの坂の始まりにたどり着いた
‘いろは坂’
ジブリ映画でも有名な耳をすませばの舞台の坂
頂上、劇中では地球屋があるロータリーまで続く高い丘
「この丘の頂上が桐島のウチだから あと少しがんばれー 」
(まだ上るんだ… )
疲れたというより暑かった
首や額やうなじの汗を手で拭う
見上げたところで全貌が見えもしない山のような巨大な丘に一歩を進ませた
何度もS字にくねった丘を巻く急な坂道を上る
実質何度の急斜があるのかわからないけれど、今の私には本当に山を登っているような感覚だった
左に生い茂る森と、右から見える町並みの景色、タイヤの跡の残るコンクリートの道路を前のめりに身体を進ませる
作戦タイムは終わったのか、有珠ちゃんは近くの雑草に生えていた猫じゃらしを手にとって嬉しそうに鼻歌まじりに振って遊んでいた
そしてその横で辛そうに自転車を押す灯が姿があった…
ジャリッとローファーが擦り減りそうな音を立てながら必死に上った辺りで、ふと顔を上げ右
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