第27話

「ふぅ… はぁ 」
長旅や大航海を成し遂げたような気分だった、強い達成感と重い疲労で部屋のドアを開ける

小さな部屋に人間がひとり
私は家に帰ってきた

でもまだだ、ご飯やお風呂の前に一つだけやることが残っている

私のカルマだ…

今も机の上を占領する小さなそれと、私は今晩も対峙しなければならない

今日の作戦で日にちが確定した今だからこそ、斬られる側と斬る側、その両方の意見が本当に一致するかどうか、確かめる必要があった

紺野美弦の携帯電話を手にとれば、バッテリー残量が残り一欠けらになっていた
自分の携帯会社と同じかは分からない

けれど私は、ベット付近の電源タップにさしっぱなしの充電器へと足を進ませた

携帯の差し込み口を探し、充電器を宛がった

(…… )
よかった、のだろうか

嬉しくはない偶然が、すぐに待っていたかのように電気をむさぼり始める

私と同じ会社の携帯だった

誰からもメールや着信の受信はない

そして始める
ウィッチとのラストスパートを

今度はこちらから、全てを終わらせる為に
王手をかけたメールを送り込むのだ

冷たい指が何かに追い立てられるようにボタンを押していく
すらすらと、小細工まじりの文章が小さな液晶画面に描かれていく

-本文-
「こんばんは  春貴さん…で当っているしょうか?
いきなり本題なのですが、三日後にある夏祭りの日に会えないかお聞きしたいです
私はその日の夜なら暇なので、もし都合が合えば、よかったら駅前にでも待ち合わせして、携帯をお返ししたいと思っているのですが 春貴さんは無理でしょうか? 」

確信を突くような剥き出しの気持ちとは裏返しに、そのたっぷりの優しさを装った敬語を見ると可笑しくなってくる
そして…無性に悲しくもなった

何遍も言うように、仮にも相手はあの凶悪なウィッチだ、人を斬り付けて、次は殺すかもしれないような危険な人間だ

でもそれと同時に、同じ痛みを持って苦しんでいる唯一の人間でもあったりした

敵だ…
必ず捕まえると、皆であらがうと約束した、敵なんだ…!

(…… )
私は、送信ボタンに指を進ませた

どういう理由かはわからない
でも、貴方のその企みを見事阻止してみせるよ

それが、私達の企みだから

私は王手をかけたそのメールを、力ずくで

――送信した

難無くその一通は向こうへと送られていった


***
そこから少し、また高校生の小さな推理が始まった

私は昨日、この人には両親がいるという前提を当たり前のように決めつけていた
高校生で弟さんもいる、普通の家庭ならもちろん当たり前である

しかしどうだろう…

携帯のアドレスに弟しか載っていないのは、さすがにおかしくはないだろうか?

もし友達や知り合いが誰もいなくてアドレスがからっぽなら話はわかる
しかし唯一の家族のアドレスや電話番号くらいは入れておくのが普通のはず
弟が入っているのに親が入っていないのなら尚更だ

病室の件からも、仮にもし、両親がいないという仮説をするならば‘春貴’のウィッチとしての可能性もまた更に格段に上がることになる


――ヴーッ、ヴーッ!、
(ッ!? )
推理に意識を向けていたときだった、手の中の美弦の携帯がバイブの震えと共に鳴った

メール受信一件

春貴からの返信に、胸騒ぎを押さえて携帯を開く

(どっちだろう… )

‘無理’ならば日曜日に犯行を行う可能性が大になる
‘大丈夫’ならば白という可能性が大になる

…ドクンッ
手の平の血管が脈を打つ、冷や汗が手を湿らせる

いざ、返信メールを開く
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