夕日に熱っせられた重い扉を開ける
すぐに眩しい夕焼け空が現れる
急にチカチカ照り付けた光に堪らずウッと目を細めてしまう
夕映えに燃える屋上から見た景色は、街やフェンスでさえも熱を帯びているようだった
コンクリートの屋上は、頭上一面に広がる大空と同じように、赤やオレンジ色の茜色に染まっている
夕涼みの風が、夏の終わりを思わせる
そして、そんな殺伐とした広く平たい空間にぽつりと、一人の少女は立っていたんだ
風に揺られる柔らかい銀色の髪、一際小さな身体、異様に透明度の高い白い肌
しかし少女は、その綺麗な見た目とは裏腹に、惨めにも白いチョークの粉を身体全体、特に頭から肩にかけてを酷く汚していた
立ち尽くしたその背中からは、真っ暗で冷たいそうな影がほっそりと伸びている
まるで街に置き去りにされたようなそんな少女の立ち姿に、私はゆっくりと足を踏み出した
残り、三メートル、二メートル
尚も張り裂けそうな距離を詰めていく
…緊張の一秒が、張り詰めた胸に突き刺さる
静かと言うよりは不気味すぎる空気と、足音以外の音のない世界
前に立ち尽くす少女も、振り向きはせずとも、こちらに気がついているようだった
えぐり取られそうな気持ちを抑え、すぐ側まで歩み寄る
(…ゴクリッ)
足を止め、自分なりに呼吸を整える
生唾を飲み、その背中目掛けて言葉を発しようとした、…ときだった
「……何しに、来たんですか…」
(!?ッ… )
背を向けたままの少女が、私より先に声を漏らした
ぐっと涙を押し堪え震える、完全に内に篭ってしまったような…本当に暗い声だった
そして、有珠ちゃんはゆっくりと私のほうへと振り返ったのだ
そのときだ
「?!ッ―― 」
そういう反応をしてはいけなったはずだったのに、思わず私は驚いてしまった
だって、なぜなら、振り向いたその彼女の子供みたいに柔らかそうな頬っぺたには
殴られたように痛々しい、大きな‘青痕’がくっきりと浮かび上がっていたからである…
「ぁ…ぁ… 」
そのあまりにショッキングな姿に、喉まで出かかっていた言葉も打ち消される
思わずこめかみにシワを寄せてしまう
失礼にも、そんな偏見に近い視線を、傷つけられた本人の前でしてしまった
「……っ 」
つい足を後ろに戻してしまう、夕焼けに照らされた目の前の現実を前に、恐ろしく震えがしたんだ
「…なんで来たんですか…」
ムッと粉っぽい独特の臭いが鼻をつく
「ごめん…有珠ちゃん、でもやっぱり私は…」
切ない夕焼けともあいまって、強い敗北感や劣等感に苛まれる
そしてまた実感させられる、やっぱり私達は…‘孤独’なんだと
――どうして、私達は人並みに等しく生きていけないのだろう?
ドラマのように死と隣り合わせとかじゃなくて、寧ろ掛け離れてて
ただこんな理不尽に…並外れた苦しい日常に、生かされてしまっているんだ
それも何にも悪くないのに…解決させなくちゃいけないんだ
………
***
そこから私は、何を話していたか自分でもよく分からない
ただ助けたい一身で、要らなかったであろう先程の私と灯の話した事なんかも話してしまった
「有珠ちゃんのいじめが有珠ちゃん自身で解決出来るように、私も手伝うから、…きっと、そのいじめの理由の有珠ちゃんの見た目も、受け入れてもらう努力も、灯やひよりとも考えるから 」
安定しない声が、必死に伝えようと努力する
「……」
「もしそれも出来なかったら、この学校や街の全てを敵に回してでも、私達は一緒にいるからっ、プライドとか、迷惑と思われても、一緒
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