「人を殺したんだ… 」
少女は静かに、冷酷に、私にそう告げた
「そう…なんだ 」
ちゃんと驚きはした、思わず足元がふらついたし衝撃も走った
身震いや恐怖だってした
でも、なんだろう
それ以上に、今の有珠ちゃんの姿の断片には、むしろそれだけのカルマが蝕んでいる気がして、すんなり納得してしまったんだ
人を殺した、その言葉が、目の前のいじめられっ子兼人殺しの声と瞳には、異常なくらいにピッタリと似合っていたんだ
もちろん、哀れみや悲しみや、ずっと一緒にいた有珠ちゃんを本当にかわいそうにも思った
まぁ、その知ってる偽者の有珠ちゃんとは…今はもう別人だけど
だからなのかな、初めて出会った他人の話しを聞いている気分だった
「これは嘘じゃないから 」
大嘘つきが言う
「…うん」
ただ、私はそっと、現実を受け入れる覚悟をした
有珠ちゃんが人を殺すはずがない、そんなこと出来るはずがない
残念だけど、今の変わり果てた少女の姿では、そう断言出来そうにもなかったから
「正確には…殺しかけたんだ 」
そうして有珠ちゃんは、まるで自白をするように、真実を語り始める
ゆっくりと、私達の友達という関係が離されていく気がした…
「ゆり、その前に一つ聞きたいんだけど、僕が本当にただこんな外見なだけで、どの学校でもクラス中からもいじめられてたと思う? 」
少しふさぎ込んだ表情で、有珠ちゃんがぽつりと口を開いた
「…他にって?」
その問いかけは予想外だった
その問いこそが、有珠ちゃんの真実と…痛みのカルマの現実だった
「いや、別に… じゃあ、これからちょっと、長話をする 」
そう言うと、少女は独り言みたいに、なぞるように過去のトラウマ話を喋り始めた
音のない夕空に、粉まみれの銀髪、痛々しい大きな青痣と白い頬、赤くただれた青い瞳、汚れたそれらが茜色に染まる
「僕はさ、子供のころから、この外見で色物に見られることが多かった、ハーフじゃなくクォーターでここまで外見が向こう寄りになるのは本当に珍しいんだ、ポーランド系、肌も瞳も…そして髪もね 」
その物語は、刺々しい口調に乗せて、自分の哀れな姿をさげすむところから始まった
「僕だって小さい頃は、内になんて篭らず隠すことなんてしなかった、みんなと同じように、人並みに笑って、元気で、こんな男の子っぽい性格だったんだ 」
「…でも、小学校の低学年のころからかな、僕はクラスで周囲の子達から からかわれ始めた、理由は、一人銀髪で黒い髪をした周りとはどうしても馴染めなかったから」
「多分、だからなんだと思う、ウチのお父さんはね、次第に見た目のせいで内気な癖が出来始めた僕が、高学年になって更に浮いて学校でいじめられないように、きっと心配も含めて、優しく‘勉強’を教えてくれるようになったんだ」
「色々親として思ってくれてたんだろうね、大切に愛してくれてたんだと思う、僕は子供ながらにその他人との絶対的な違和感を感じていたから 」
「けれど、中学生になると、そのお父さんの優しさも、半ば強制的に勉強をさせるようになってきたんだ 」
だんだんと、少女の顔色が変わっていく
「テレビを見てると勉強、部屋にいれば勉強、暴力みたいなのはなかったけど…僕には逆らうすべもなかった、この本当の性格は更に内に篭るようになっていった 」
「中学校ではいじめられた、からかいや冷やかしも続いた、家では尚もひどく勉強勉強、期待を超えられなくて心の中には徐々に、でも確実に、傷が増えていった、今思い出しても、楽しい学校生活の記憶なんて僕にはこれっぽっ
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