日も落ちかけ、辺りには影と静寂が深まるころ
広く薄暗い屋上の中心に私はいた
ひっそりと、冷たいコンクリートにひざまづきへたりこんでいた
膝が汚れるとか、もうそういう当たり前の事もよくわからなくなっていた
心から大切だと思えた人間をひとり失ってしまった
その悲しみや痛みや、言葉にも出来ない大量の想いや、抱えきれず込み上げた感情に、あまりに脆い私の小さな身体はまともに立つことさえ出来なくなっていた
でもきっと私だけじゃない、こんなもんじゃないくらい、今は有珠が一番傷ついている
部室で待つ灯とひよりもそうだ
今日までずっと頑張ってくれて、やっとウィッチを捕まえられるかもしれない寸前まで来たのに…
もう明後日の作戦も出来ないかもしれないなんて
このまま、どんな顔をしてあの部室に帰ればいいのかな…
いつの日か、偽物の有珠ちゃんにチョコ色が美味しそうなんて言われた髪を、無惨にだらんと垂らして、顔を覆うようにして私は泣いた、泣き叫んだ
「ぅ…うぁぁああ…ッ! 」
かすれたちぎれそうな声で屋上に叫んだ
誰にも届くことのない悲痛な叫びは、バラバラになりそうなくらい響いた
ごめん…、ごめんなさい…、本当にごめんなさい
――何だよお前、友達も助けられないで!
――死んだほうがいいんじゃない?
――どうせお前なんか誰の力にもなれないんだよ!
自分を責める内の声が、有珠や灯やひよりの声に変換されて頭をガンガン叩いた
身を切られるように辛かった
どうしようもなく痛くて痛くて、こんか世界から今すぐ自分を葬り去りたかった、息をしている自分が憎たらしかった
(なんで…)
どうしたら、私達はこんな地獄から救われるんだろう?
心が軋んで悲鳴をあげた
わけもわからず、私は小さな右手で硬い屋上の地面を殴った、何回も強く殴り付けた
「ぅぁ…ッ! ばかぁ…っ! 」
三発くらい殴ると、柔らかい拳の皮膚と骨がずきずき痛んだ
薄皮がめくれて血がじわりと滲んでいた
(…なんやってんだろ、私)
手じゃないほうの痛さに空を見上げてみると
景色がひどく滲んでいた
世界がぐにゃぐにゃにぼやけた
(ぁぁ、違う… )
これは涙だ、大粒の涙が濁流のように滴り落ちているんだ
一度、視界を閉じた
閉じたまぶたさえ、涙は溢れて出てきた
またぽたぽた落ちる
苦しいくらい、ぼたぼた落ちてくる
「…っ…ひっく…ぐすっ 」
耳や鼻まで熱くして、呼吸が乱れるくらい小刻みな鳴咽を繰り返した
鼻水だってみっともなく出ていた
(…助けられなかった…っ )
灰色のコンクリートの地面が容赦なく溢れる涙をすする
尚もボロボロの右手から流血した赤いものがぽたりと落ちている
それらが灰色に染みを作っていた
ずっと泣いた、とても誰にも見させられない姿で、耳障りなくらい泣きじゃくった
大嫌いな世界は、また当たり前に、鼻歌でも歌い上げながらのように、簡単に今日を終わらせようとしていた
***
「………」
しんみり、暗く人気のない廊下を歩いていた
駆け上がってきた道を、打ちのめされた敗北感を背負って部室へ戻っていく
足が異様に重い、出来るだけ部室には着きたくなかった
通知表が親に見せられないくらい最悪だった小学生の帰り道や、ひどく叱られるとわかっていて家へ向かうときと同じ気分だ
とぼとぼ、遅くて幅のない一歩が、拒むように階段と廊下の帰り道を進んだ
最悪のざまな姿に頭もあがらなかった、おばあちゃんみたいに背中を丸くして肩を落としていた
ため息のようなものを漏らしては、鼻をすする音が廊下に
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