第35話

-9月13日-(土)-

朝、何ら変わりない7時前、私は起きた

ウトウトする意識にむくりとベットから起きあがる

部屋の窓からは微かに霧がかった光が注がれていた
今日の聖蹟桜ヶ丘は分厚い曇り空だった

ハンガーで壁にかけられた制服を上から順々に着替えながら、机の上のウィッチ(春貴)の携帯を確認する
急に冷たい感触に意識が覚める
サブ画面、メールの受信はない

「そっか、土曜日 」
ついに明日は最後の日だ、花火大会だ
ひどく大きな傷痕やトラウマを隠し持って
そんな傷だらけの四人で誓い、孤独に四人であがいて力を合わせて立ち向かい
死ぬほど危険を浴びて、泣いて笑って怒って悲しんで
必ず勝利を掴み取ろうと
そして待ち望んだ日だ、一世一代の一大イベントだ

有珠が昨日の痛みで外れてしまったこと以外を除けば順調な、…はずだった

そう‘はずだった’

気配がしたんだ

制服に着替えながら携帯を確認した
春貴のじゃなく私のほうの携帯を
そして、唐突に、その一大イベントはゴミになった

‘もう一人’が痛み(カルマ)で去っていった
充電器から取り外した私の携帯電話を覗くと

着信ランプが点滅してメールが一件届いていたんだ

ひよりからだった
すぐさま、昨日までの不自然すぎる動作と「さようなら」を思い出した
一番あってほしくない現実が脳裏をかすめた

起きたばかりとは思えない意識で見たそのメールの内容に

私は何かに頭を強く叩きつけられた
錆びた釘を胸にこれでもかと打ち付けられた
携帯を持つ手が震えていた

(灯、ごめん )
明日は、無理みたい…

-本文-
「こんなに朝早くから申し訳ありません、ですが、どうしてもゆりちゃんには言っておかなければならないと思いましたのでメールしました
私は、今日は欠席します

このところずっとずっと…四人でいたときもずっと考えていたのですが
明日の事です
ゆりちゃんや灯ちゃんの力になるか
…最後、彼の元へ会いに行くのか
ずっと、悩んでいました

ですが、私はやっぱり、ゆりちゃんにあの日言われた通り、自分のカルマと対峙しようと思います…決着をつけようと思います
最後の最後に、こんな裏切るような形になってしまって本当にすみません
でも…もう壊れそうなんです、やっぱり私はだめでした
こんな、本当の本当に、最後には裏切るような形になってしまってごめんなさい、迷惑をおかけして申し訳ありません

私が出来ることは、ここまでのようです 」

そのメールに、何度弱音と謝罪が書かれていたのだろう
今にもあの日夕暮れの非常階段で見たひよりの泣き顔が見えてくるようだった

裏切るはずじゃなかったのは分かってる
ずっと悩んで、究極の二択を選んだのも分かってる

有珠の抜けた今だからこそ、誰より優しいひよりは、どれほどの責任を感じてこれを送ったのだろうか
死ぬ思いで悲しんで悩んで、別れを覚悟してこのメールを送ったはずだ
壊れ始めてるのも知ってるくせに、ぼろぼろなはずなのに、私の希望を潰して選んだ、唯一のひよりの過酷な選択だった

明日は日曜日、私の痛みを倒す日
私のカルマと戦うと集まって誓った仲間
だけど、ひよりに自分のカルマに向かったほうがいいと言ったのも私だ
だからひよりは絶対悪くない

たった二週間しかいなかった私達と、ずっと一緒にいた大事な人との最後の選択なら
たぶん正解は、後者なんだよ

どっちが大事とかじゃなくて、どっちも大事なはずだから
私の為の私のカルマに、逃げるように来てもらいたくはなかった
だからあの日そう言った

きっと、ひよりは正し
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