第36話

どこで間違っちゃったのかな?
どこでこんな結末に繋がっちゃったのかな?

こんなことになるなら…、あの日死んでおけばよかった
死んだほうが、ずっと楽だった

誰とも出会わずに、一人で夢なんか追わず、こんな張り裂けそうな気持ちにならないほうがずっとマシだった

アニメみたいにあがいてみたって、どうせ…無理なんだ、弱者の反撃なんて所詮こんなもんなんだ

カルマだらけの落ちこぼれなこんな私には、結局無理なんだ

***

いつの間にか、外からは降りだした雨が地面を叩きつける音が校内のあちらこちらに鳴り響いていた
蛍光灯の光さえない二人ぼっちの部室には、ひよりが来ない時間と比例して不信感と裏切りの亀裂が入っていた

「ねぇ…ゆり、どういうこと? …教えてよ 」
俯いた灯は、髪で瞳を隠すようにして顔を伏せていた
目は見えずとも、今朝いた夢を追う少女の姿ではなくなっている事は一目瞭然だった

震えて、どす黒くて、狂うような声
親友に裏切られた大量の悲しみに、殺気を澄まして怒っているような、そんな震えた声だった

「ねぇ……」
暗闇の先からぼやけた低音の彼女の声が届く
「ねぇ…って、言ってるの…」

その声に私の顔は思わずこわばった
「ひ、ひよりに…秘密にしてほしいって、言われてたの…」
目も当てられず、弱腰な言い訳を言う

「……」
その回答に、前の灯が無言で私をぐっと睨み付けた
何かを殺すような狂気のこもった視線に私は鳥肌が立った
(い、言わなきゃだめだ…っ )

そこから一息の間を開けて、追い詰められた私は、灯に全てをぶちまけた
早くここから逃げたかった、自分の犯した罪を吐き出したかった
(…ドクンッ)

「ゴクッ… じゃあ…話す…から」
生唾を飲み、そうして、あの日から続くひよりとの秘密を語り始めた

ウィザードの日、灯と有珠が帰った後に校門で起きたひよりの悲劇
夕焼けの非常階段でのひよりの涙
そしてひよりの、明日…花火大会での最後のカルマ

私は、ひよりに泣いて秘密にしてほしいと言われたこと全てを暴露した


***

語り終わると、灯はさらに声を変えて言った

「…ずっと、あたしに内緒でひよりと隠してたんだ 」
モザイクにぼやけた空気に、灯がぽつりと呟く

「ずっと、あたしがこんな頑張ってる間 あたしだけ…仲間外れだったんだ 」

「違う そんなつもりじゃ…! 」

「なにが違うんだよ!! なにが違うってんだ!! もうこれで明日だって無理じゃんかっ 有珠が抜けて…それにひよりまでっ 」

「しかも…全員こんな、こんな状態で…もう絶対無理じゃんか! 」
乱れ飛ぶかすれ声が、私を容赦なく怒鳴り付ける

「まただ…どうして、どうしてゆりはまたそうやってひよりとだけ秘密を持つの?、あたしに隠し事して、先週と同じじゃんか… 」

「なぁ あたしのカルマさ…ゆりはちゃんと覚えてる…? もう、忘れちゃった?」

(!!ッ―― )

そうだ…
まただ、また私は忘れていた、また繰り返してしまった

たった一週間前、ちぎれた私と灯の関係、灯の真実と痛みを知ったばかりなのに

灯の痛みは‘私’
そう、誰より身近にいる私なんだ
紛れもない‘小林 ゆり’なんだ

悲しいくらいに同性の親友を好きになってしまったレズビアンは、その真実を私に泣きながら語ったんだ
なのに…私は、また灯を差し置いて、のけ者みたいにひよりと秘密を持ってしまった

灯の為、チームの為、何よりひよりの為だと思った
有珠が抜けるなんて事がなければ灯にだって簡単に言えてるはずだった

それが、灯の痛みをえぐ
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