第39話 有珠編

僕は大嘘つきだ

出会いから全てが嘘だ、十五年の人生の半分が嘘だ、性格から仕草まで何から何まで嘘だ

頑丈に心を閉ざして、いかにも無知で害のない幼い女の子を演じあげ、可愛がられる形に仕上げられた‘有珠ちゃん’

これは外部からの攻撃や傷を防ぐための変わり身なんだ
自分が死なない為の保険
偽りで、スイミーの手段でしかない外見

本当は、こんな僕だって本心で笑ってみたい

でもそんな簡単じゃない、出来ないんだよ、勝てないんだ

こんな醜い身体じゃ、こんな銀髪じゃ、父親を半殺しにした女の子なんてレッテルじゃ…今更クラスで笑えるはずない

むしろ笑われる
中傷されて、いじめられる
チョークの粉まみれにされて、上履きは消える、教科書はゴミ箱に捨てられる

誰にも僕の気持ちなんてわからない、誰も僕の友達になんてなるはずがない

それが、僕の結論、僕の常識
僕とその他敵との生活


そのはず…だった

転校してきたこの学校で、その常識は覆された

またいじめられて無視された
辛くて誰にも言えなくて、机の片隅なんかにしか吐き出せなかった…、細々しく小さく書かれたSOS信号

そんな消えかけの悲痛な叫び声を
まさか、気がついてくれた人がいるなんて思ってもみなかった

しかも。がむしゃらに僕を屋上まで追いかけてくれた生徒がいた

面識もないこんな独りぼっちの存在を、馬鹿みたいに大切に助けようとしてくれた人がいたんだ

それは、他者との接触を避け、日々怯えながら過ごす女の子

‘小林 ゆり’だった

僕の本性をあばいた唯一の生徒だった、…初めて出会った同類だった


そしてもう一度、僕がまた屋上で粉まみれになったとき
青痣を頬につけられたとき

泣きながらおぞましい正体を真っ正面からぶちまけても
醜い過去を洗いざらい晒しても
全部嘘っぱちだって叫んでぶつけても

ただ、友達…だったから

友達だったから、ゆりは一歩も引かなかった
むしろ絶交しようする僕に、身体を引きずってでも歩み寄ってきた

だから、たまらず、本当の僕は別れを告げてしまったんだ

嫌だったんじゃない
押さえきれなかったんだ、弱々しい僕の本当は、ティッシュと同じくらい柔らかくて破れやすくて

信じられなかった、生まれて初めて感じた本当の友達ってものに
ぬくもりを含んだあったかい言葉に戸惑った、嬉しくて嬉しくて、鳥肌が立った

だけど…
本性をばらした悲しみや、押し寄せてきた今までの嘘と罪の罪悪感
僕の見た目や事情のせいなんかで足を引っ張って、せっかく出来た友達の作戦を台無しにしてしまった事実
…参加も出来なくなった絶望から

僕は逃げた

がむしゃらに逃げた、狂うように走って走って、さようならを告げてしまった


夢のような二週間の全てが、泡のように消えた
所詮、僕みたいな人間には無理だったんだ
友達や青春なんてものは遠い異次元のモノ、眺めるだけのモノ、そう…思わざるおえなかった


でも――

――逃げきれなかったんだ


別の‘友達’が、明日いじめっ子と戦う僕に、さずけてくれたんだ

学校を飛び出して、喫茶店に寄って、泣きながら家に帰ってきて部屋に引きこもったとき

ギターケースの膨らんだミニポケットに違和感を感じた

すると、まさか本当に入っていた


MDディスク一枚、歌詞入りの楽譜一枚
歌だった、僕に与えられたオリジナルの歌だった

歌詞に書かれた題名は‘テトラゾラ’
意味はよくわからなかった

でも発見した瞬間、とっさに押し入れの中からMDプレイヤーを引っ張り出していた
ずっとしまいこんでい
次へ
TOP 目次
投票 感想
まろやか投稿小説 Ver1.30