第39話 ウィッチ編

待ちに待った明日の殺害予定日を前に、駅前は花火大会の熱気に華やかに彩られていた

連続通り魔事件が多発しているのにも関わらず、街は危機感を持たずにお気楽に夏の最後を楽しんでる様子だった

相変わらず、おおげさなテレビの特集やクラス内の会話では、ネタや怖いとあおらるけれど
実際にはどうせ誰も俺のことなんか気にしてない、ニュースや会話が終われば、存在さえ忘れられる

警察だけを除けば、誰もがちっぽけな俺を無視していた…

結局、美弦の携帯を拾った人からも、返信が来ることはなかった

わかってた、どうせ…親切でメールをくれたわけじゃないって
ただ面倒くさくて邪魔だから、早く返したくてメールをくれたんだって

良心や救いなんてこれっぽっちもない
仕方ないよな、お前は犯罪者なんだから、自業自得だ

それなのにさ、美弦からの受信が嬉しくて
弟がたまに呼んでくれてたから‘春’って呼んでもらえたら嬉しい、とか…向こうからしたらウザイだけだろ、そんなの

あいつなんかじゃない、赤の他人だ、むしろ…敵の類いだ

だから無視されて、メールも返ってこなかった、当たり前のように消えた

今ごろどうなってるんだろう
捨てられたかな、大事にされてるかな、乱暴に傷つけられて埃とかかぶってないかな

それより、もう警察に届けられたのかもしれないし

まぁ、だからといって今更どうすることもないけどさ
どうせ何もかも明日で終わるんだ、関係ない

落とした俺が悪い

めちゃくちゃ辛いけど、大切な美弦との思い出をまた一つ失っちゃうのはホントに苦しいけど…

美弦の携帯は…もう諦めるしかないんだよな…


慣れるっていうのは怖い
苦しくたって痛くたって、それが毎日続ければ、不安定を通り越して平気で日常化していく

その分、痛みに麻痺した身体に、またさらに感じるだけの重度の痛みが突き刺さる

死にたい、…殺したい
そんな独りよがりを、数分間に何回連呼してるんだろう

もう疲れたよ
いつの間にか、スゲー狂っちゃったよ…俺


実はな、さっき斬ったんだ

人じゃなくて…‘俺’を

リストカットなんて、おおげさなドラマの中のモノだけだと思ってた

全然違った、意味なんてたいしてなかった
別にリスカで死のうとか思ってもない
明日のあいつの斬られる姿を想像した予行練習だ
込み上げる恨みに腹立だしくて、スゲー自己嫌悪と狂喜に取りつかれたみたいになって

そして俺は、自分の左腕をメルトで斬った

痛かった、鋭く尖った刃が肌をスーッと切って入っていく感触を覚えた
肌がぱっくり割れてさ、プツッと切れた中からは美味しそうな赤色がダラダラ溢れてくるんだ

終わると、なんかスッキリしてた

でも、異変に気がついたのはそこからだった

おかしいことに…錯乱した後によく見た左腕には

全くそれらしき‘傷’は出来ていなかったんだ

…ありえねぇよ

奇っ怪で不気味な光景に、一気に顔が青ざめた

なんだこれ、まるで…

…バケモンじゃねぇかよ

そう、一度自ら死んだその身体は、体温をなくして蘇ってしまったあげくに
その低体温者は他人を斬ることは許されても
それから逃げるように、自身を殺めることは許されなくなっていたんだ

都合よく、死なせては…もらえない
なんの罰だろう
まるで後付け設定みたいに、なんの意味があんだろう

もっと苦しめって、そう言われてる気がした…

なんでだ…
なんで、いつもいつも俺だけがこんな目にあわなきゃけないんだ…

もう別にいい…、どうせこの秋刀魚の形をした刃物がだめなだけだ

普段、普通に擦り傷
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