「なぜ…拓未がそのことを知っているんでしょうか? 」
打ち上げられる花火を横目に、問いただすような口調で私は言った
少しの時間を開けて、彼は申し訳なさそうに話し始めた
「実は一年前さ…、俺が入ったあの出会い系サイト、退会した後に‘何者’かに攻撃されて閉鎖になったらしいんだ」
ギクリとした、それは去年、私が無茶苦茶に潰したサイトだった
「でもそれだけじゃなかった、俺が携帯のアドレスを変えると、そのすぐ後に、次はそこのサーバーまで攻撃された」
「………」
「その一連のクラック事件は、世間では‘ウィザード’っていう同一人物の犯行って噂されてる、しかもその人間は、今も聖蹟桜ヶ丘にいるらしい 」
「丁度ひよりと離れた時期、あんなこともあった後だから、俺にはどうしてもこれが偶然だとは思えなかった」
「もし俺の周りでそんなことできる人がいるとすれば 間違いなくひより以外には考えられなかったから、…だったら、俺が傷つけて離れてしまったからこそって、本当に不安に思った…」
靴底がコンクリートをザッと擦り付ける音がした
「違うとも思ってたよ、まさかって、でもひよりが今の反応ってことは、やっぱり…そうなんだよな」
「…はい」
否定は、できなかった
「ごめん…本当に、俺なんかのせいで」
落胆ではなく罪滅ぼしのようなものを込めて、拓未は深々と頭を下げた
「いえ、私がしてしまった過ちです、それに…拓未だってあのときは一杯一杯だったんですから、私にだって責任はあります、お互い様だと思います、ごめんなさい」
どっちが悪いとかじゃなかった、どっちも悪くなくて
けれども、どっちも悪かった
「でも何でだよ、何で今さら、また始めたんだよ? クラックなんて犯罪行為」
「友達の、為なんです 」
「友達? 」
予想打にしなかった言葉に拓未が思わず聞き返す
「大切な大切な、本当にかけがえのない友達が出来たんです、でもその子は今、色々と抱えてしまっています」
なぜか、もう灯ちゃんに見つかったときのような不安はなかった
綺麗さっぱり正真正銘、突き抜ける正義が私にはあったから
「だから私が、私達が、捕まってしまうような危険を犯してでも、無謀でも、その子と一緒に戦ってあげようと決めたんです 」
今日一番、大きく揺るぎない声を張り上げて私は言った
自分でも驚くような、嬉しそうな声だった
「もしかして、俺が行ったときに隣にいた子? 」
私はこくりと頷いた
「そっか 」
納得したのだろうか、悟ったのだろうか
拓未はただその一言だけを述べ、どこか満足したように花火に染まる夜空を眺めた
離婚や家庭事情も、お互いに去年から胸にしまいこんでいた痛みも
拓未は私に返答を求めるわけでもなく
押し込めていたモノを下ろし、視線をゆっくりと離した
ウィザードという犯罪者を暴いても、私の言った理由には決してやめろとは言わなかった
見守ってくれるように、ただそっと瞬きをしてくれた
なぜか、言葉もないその些細な仕草に、私はすーっと心の奥が救われた気がした
拓未も私と同じだったと、拓未は一年間もずっと私を心配してくれていたのだと気付いたから
とっくに心は許していて、去年から埋まることのなかった溝が
一年間という流れに置き去りにされた感情が、少しだけ埋まった気がして安心した
と同時に、尚も何も出来ない、口にさえ出来ない
答えすらも出せずにうじうじと接する自分が、ひどく悔しく不甲斐なく思った
…申し訳なかった
(…… )
私は、ゆりちゃんを取り残して此処にきた
だった
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