「灯…ちゃん? 」
見上げると、そこには
――灯ちゃんが立っていた
鋭い目付きで、今にも消えかけの私を見下ろしていた
「何やってんだ こんなところで 」
打ちのめされた屍を見て、灯ちゃんは力強く言った
「…っっ、私は…」
負けた…だめだった、無理だった
そんな事言えない…
「電車、行っちゃうよ?」
見ると、急いで改札をくぐる人の姿が見えた
「………」
今の私じゃ、もう何も出来ないんです
触れもしない、キスどころか手も繋げない
よりを戻せても、今よりずっと遠くへ行ってしまう
‘当然の事’が出来ない恋愛
たとえ追いつけたって…
「いいのかよ、それで」
沸き立つ感情に満ちた眼差しが、私を捉える
「そんな、生半可な覚悟でゆりを置き去りにしたの? 」
「………」
何も、言い返せなかった
不甲斐ない、申し訳ない限りだった…
「追いついてやれよっ! ひよりは、本当にそれでやり終えたのかよ 一年間抱えてきたもんは、それが終わりなのかよッ」
「っ…ごめんなさい」
答えられず、惨めに俯いて、また涙で顔をぐしゃくじゃに濡らした
「もし今このまま帰ったらさ 相当ひより情けないよ? きっと、最低でもこの高校生の間はずっと情けないよ…」
けれど、灯ちゃんは断固として引かなかった
「こんな私じゃ…彼を追いかけても…」
嗚咽まじりに、私は彼女に醜い弱音を吐いた
「ぁぁ追いかけても、たぶん後悔するよ」
「………」
そうですよね、今さら…追いかけても
「‘けどさ…’」
「…ッ」
その瞬間、灯ちゃんは私にスレスレまで顔を近づけ
そして言い放った
「ずっとそこでうずくまって、一生惨めに後悔してるよりはいいだろ?」
「……ぅッ」
「もし、この為にひよりがゆりを置き去りにしたなんて言ったら あたしはひよりをひっぱたくよ?」
灯ちゃんは瞳を見開いて、視線を逸らすことなく、言った
「納得できないんさよ、突き抜けるまでやりきって後悔するならいい」
「けどさ!…‘好きなんだろ!’泣くほど後悔するほど、好きなんだろ!」
声を張り上げて、周りなど気にせず無我夢中に貫き通した
「…ッッ 」
ずっとしまい続けてきたその言葉に、私は無意識に、壊れてるほど頭を縦に振って頷いていた
好き、大好きです
でも…
こんな姿に成り果てた自分、お互いの距離、一年前の過去
数えきれない不安が、去年のトラウマと重なり巡って、足をすくませた
「好きなら…好きと! どんなに遠くに行っちゃうとしても、好きなら好きって言ってこいよ! 一年間悩んで悔やんだ 彼の為の‘大好きです’を叫んでこいよ!!」
お腹いっぱいに空気を吸い込んで、連呼し続ける言葉が眩しかった、必死だった
「後悔するのは…それからでも遅くないだろ! 」
「…グスッ 」
私は、なんでこんなに泣いているんだろう
嬉し涙?、解放感?…そんなはずない
そうだ、彼は最後に何を言いたかったのだろう
なんで、泣いていたのだろう
嬉し涙?、解放感?…そんなはずない
だとしたら、私は逃げの感情をまとっているだけじゃないのだろうか?
(……終わってない)
未だ沈む私を見て、灯ちゃんは聞かせるように静かに唇を動かした
「あたしもさ、先週そうだった… ゆりは同性で友達、一番近くにいながら分厚い壁が確かにあった、こんな気持ちは間違えで、ただ傷つけるだけ、迷惑、あたしはずっとそう思い続けてきた」
「けど、ひよりや有珠に色んな風に背中を押されて、ゆりに真っ正直から告白できた」
「あのときの後悔や勇気があって、何より仲
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