あがけよッ!、あがけよッ!――
ソラの彼方から、決してコードなどでは表せない声を張り上げて
無言で、その轟音の塊は僕に訴えた
止めるな!、止めたら‘お前’は死ぬぞッ――
‘お前’のあらがう声を聞かせろよッ――
「ベーンッ! 」
そう言うように、懸命に身を乗り出して、へばりつくほどに、心折れかけた僕を助けようと揺さぶる音
指の皮を擦りむくほどに力強く、力強く、弾かれる太い弦の音
「…ッ…」
途切れることなく、何度もそれは続いた
(僕は…僕は…)
そして、逃げたい…と泣いていた僕は思い知る
負けとわかり、死に際に立たされた僕にだって、まだ‘死に方’ってものがあることを
ゆりを傷つけ、別れ、ここに立っている、その意味の代償にもがかなくちゃいけないことを
僕が生きる為の同等の意味を持ったこの路上ライブだ
――変わるんだろッ!!
(灯…ッ、ありがとう )
閉ざされ、すっかり荒れて汚された僕の心は、頼りなく震えた
鳴り止むことのない、影の優しさに満ちたベース音を抱いて、瞳には涙をたらふく浮かべ、泣きべそをかいた子どものような唇をひくつかせた
「……」
負けとわかっていても、縮こまって腐るには、まだまだ早すぎる
そして、いじめられっ子は
再び、再起する――
顔をあげ、乱れた銀色の髪を夜風になびかせ
ピックを握り直し、はみ出すくらいに強くフールのネックを握りしめる!
周囲は、あいつら三人を含め、いきなりソラから降り注いだ大音量のベース音に混乱していた
その隙をつき、譲れないこの歌を、僕はもう一度奏で始める
(変わる―…変わる! )
見せつけるように、右腕をソラへ高々と掲げ
救いのベース音に、返事を返す
そのまま腕は、垂直にフールへと豪快に落下する!
「ギャィィンッー!!」
低音と高音、二つの音はテトラゾラのメロディで並び、フールは強くしなやかに暴れた
***
「はぁ…はぁ…」
(くそ… )
その問題は、歌い直してすぐに気がついた
歌い手にとって一番大切なものが傷ついていた
闇にまとわれ、さっきの挫折と涙で、どうやら‘声’がやられた…
自分でさえ居心地が悪いほどに喉が枯れて、ニュアンスさえ不安定で、酷くがさつな声だった
(だめだ…全然、上手なんかじゃない )
でも、諦めたりはしない
もう諦めるか…一年間待ったチャンスなんだ!
それを最後まで出来なきゃ、投げ出すくらいなら、此所に立つ資格なんてない
助けてくれた灯のベース、頑張っている皆の背中、守ると誓った部室
悔しくて悔しくて、すり減った喉を震わした
死に損ないの渾身の力を振り絞って、前の観客に想いを叫んだ
カラオケ五時間後のような聞くに耐えない掠れ声が
汗まみれ、涙で薄汚れた顔から精一杯発せられる
もうだめなことはわかってた
でも、最後までちゃんと歌わなくちゃいけないと思った
こんなのは…初めてだ
何を発したって痛みに変わるだけだった声が、自分をこんなにボロボロにするまで叫び
絶えず偽り続けてきた、本当の僕の‘カタチ’を響かせて
ためらいもせず、真っ直ぐにガチンコでぶち当たっていたのは
完成度という言葉を使われたら、これ以上にないってくらいド下手な歌だ
だけどたぶん、僕の中では、これ以上にないってくらい、一番上手に歌えた歌だった
ひどく愚かで自虐的で、何を言っているのかもわからない
ノコギリのような音が、胸に溜め込んでいたモノを噴出させていた
歯を食いしばって、真正面から何べんも奴らに‘僕’を叫んだ
喉は熱を増し、酸素不足で
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