ドクンッ…ドクンッ
「ふぅ…はぁ 」
大きく深呼吸をする
ついに、Over Driveの出番だ
右足で強くペダルを踏み込み、触れていないフールの音色に変化を与える
頭の中では、何べんと聞いたメロディを流す
僕はバンドじゃない、所詮ギター一本の弾き語りだ
それをイメージし、フールにしか奏でられないsailing dayの音を指に託す
周りは、まだ歌うのか?次はなんだ?といった声でざわつき、落ち着かない動きを見せていた
(あとほんの一秒でいいから、どうか、僕の…僕らの歌を聞いてくれ)
始めよう、僕達のラストソングだ
スリー、ツー、ワン…――
その瞬間、右手が凄まじいスピードで弦に食らい付く
―ジャジャッ!! ジャジャ! ジャジャッ! ジャジャンッ!――
フルスロットルのOver Driveが本領を発揮する!
フールと共鳴し、先程とはまるで違う、歪みきったしびれるロックギターの音質に変貌する
特徴的な伴奏をカッティングでこなし、パーフォーマンス並みの劇的な衝撃に、客に度肝を抜かせる
イントロだけでわかったのか、ただ驚いているのか、口を半開きにしている人もいた
-世間でさ、銀髪の何が悪かった?-
けれども相変わらず僕は…、やっぱり口では、声では、それを問えない
同等でもないから、お前達が聞く耳すら持ってくれないから
だから、そんなお前らに向けた僕の答えを
今から叫ぶよ、よく聞いとけ
「目を閉じた その中に見えたー 微かな眩しさを 掴み取ろうとしたっ ‘愚か’なドリーマー」
終わったと思っていたのか
ソラのベース音も、慌てて途中からバックに鳴り響いた
(灯?、この歌はバッチリだよね )
少し走り気味のベースに、灯の感情が乗っているようだった
「伸ばした手は 閉ーじた目に 写らーなくて途方に暮れる 射程距離から随分っ 遠く…滲む」
「どうにかまだー ‘僕’は‘僕’を辞めないで生きてる」
青臭いまでに直向きに突き進むサウンドが、生ぬるいだけの空気を切り裂いていく
グアーっと身体ごと持っていかれる疾走感と言葉、曲調、持ち味
走り出したくなるような爽快な気持ちに身体がうちしびれる
「たった一度 笑えるなら 何度でも 泣いたっていいやッ!」
空気が旨い、待ち望んでいたサビがやってくる
一気に客を曲の世界に引き込み、前のめりにジャカジャカ音が疾走する!
「精一杯 運命に抵抗!!」
お前ら、ちゃんと見てるか?聞いてるか?
「正解・不正解の判断 自分だけに許された権利ッ!」
お前らに向けた、歌だぞ?
「-sailing day- 舵を取れ 夜明けを待ぁーたないでっ 帆を張った 愚かなドリーマーぁぁ!!」
――ジャジャッ!
「数えたらキリが無い 程の危険や不安でさえも 愛して迎えー撃った 呆れたビリーヴァー」
本当に、つくつぐ僕の人生だ、いや今そのものだ
「目を開いたその先に見えるー 確かな眩しさが 空になったハートに理由を注ぐっ」
「そうして またー ‘僕は僕の’背中押していく たった一つ掴むために 幾つでも失うんだ!」
アンプがもたらす荒々しい興奮に、掠れた声が鋭く踊る
「精一杯 ‘存在の証明’!!」
「過ちもー間違いも 自分だけに価値のある財宝!」
汗で目が染み、髪はおでこにぺったりと張りついている
ブラウスの背中は、とうに汗で滲んでいる
「-sailing day- 舵を取れ! 哀しみもー絶望も 拾っていく 呆れたビリーヴァーぁぁ!」
才能なんてない、音作りも歌唱力もテクニックも全
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