……………
………
「ぁ、あのね…ひより? ……私…ね? 」
空気が重い…、怖くてひよりの顔をまともに見ることができなぃ
ひよりの顔を見てしまったら…、どんな顔をして泣いてしまうかもわからない…、喉元まで押し寄せている胸を締め付ける痛みに震えた声を…ぐっと必死に必死に押し殺す
もしひよりに私の秘密がばれてしまえば、警察に見つかってしまう可能性だって大きい…
そしてなにより、もし通り魔と同じような力が私にもあることをひよりが知ったとき、ひよりは改めて友達でいてくれるのだろうか…
今日できたばかりの友達が、こんな私を簡単に受け入れて…にっこり笑って抱きしめてくれるのだろうか…
あらゆる不安と暗い考えが私の喉の奥に詰まり、渇ききった口の中はざらざらになる
「その…ごめんなさぃ…」
何で謝っているんだろう…私
「……… 」
ひよりはそれに何も言うわけでもなく、何も語るわけでもなかった
ひよりは今、どんな顔で私のことを見つめているのだろう…
しかし、私は次の瞬間、ひよりの行動に驚いてしまった
なぜなら…ひよりは、その細い腕でスッと私の頭を撫でてくれたからである
「…冷たいね 」
「……っっ」
自分の頭の上を何度も優しく往復しているひよりの手の温もりがじんわりと伝わってくる…
予想外のことに私は今度は恐怖感とは真逆の理由で声が出なかった
「ゆりちゃん…ごめんなさい」
そっと私の頭を撫でていたひよりはそう呟いた
「…どうして、ひよりが謝るの…? 」
「だって…あのとき、お昼に一回だけ私がゆりちゃんの頭を撫でたとき、ゆりちゃんが…人の身体とは思えないほど冷たくて、だからつい気になってしまって、聞いてしまって」
「…でも、ゆりちゃんが今、そこまで怯えるほど震えているっていうことは、やっぱりこれには触れてほしくないような秘密が…あるんだよね 」
「………ぅん…」
私は俯いたまま…そう小さく頷いた
…違ったんだ
ひよりのさっき言った「その体温…どうしたんですか…? 」という本当の真意は、疑問や偏見などではなく、心配や気遣いに対しての問いかけだったんだ
…今日できた友達を信用できていなかったのはひよりなんかじゃない、私のほうだった…
(馬鹿だなぁ… 私… )
「灯ちゃんみたいに察っして気付かない振りみたいな気の利いた配慮もできなくて、本当にごめんなさい」
…そっか、そうだ、…灯はそうだったんだ
(にぶいなぁ… 私…)
ひよりは何にも謝る理由なんてない…、なのにひよりは何度もその正直な「ごめんなさい」を私に向けて連呼してくれた
表に見せない隠れた優しさが灯の優しさなら、ひよりはその素直な優しさこそが良さなのかもしれない
上手く言葉に表せないけれど
確かなことは、今胸に感じる…この心の温かさがそのまま答えでよさそうだ…
……………
夕暮れの空はだんだんと遠く遠くの空に沈み込んでいく
秋の風に吹かれまた今日という一日も流れて去っていくこの道
私とひよりが静かに腰掛けるその古いベンチの前の道には、自転車に二人乗りをした高校生のカップルや、買い物の帰りなのだろうか大きなビニール袋を手に微笑みながら歩いてゆく若い夫婦や、家への帰り道の途中なのだろうか賑やかな子供たちが走りながら通り過ぎていく
その道の下の川辺の芝生や土手に続く雑草が生えかけている階段の辺りにはせわしなく飛んでいるトンボたちの姿が見える
なぜかその当たり前の光景が今の私の心にはじーんと染みる…
「ひより …私もひとつだけ質問してもいい? 」
そんな風景を見ていて、とっさに私もひとつだけ
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