『初めて 僕らは出会うだろう 同じ‘悲鳴の旗’を目印にして!』
――「ああぁぁッ! 」
――「うらぁぁぁッ! 」
ガシャンッ!、ジャリッ…
声を荒げて大気を揺らし、アマリリスを振り上げる
(もう2サビだッ、早くしないと… 斬らないと! )
闇の中で懸命に、出刃包丁のようなの巨大な刀身を振り回す
けれど、ウィッチは俊敏な立ち回りで素早く避ける
(…?? )
しかしなぜか、不自然に向こうから反撃をしてこようとはしない
うなだれて、殺気めいた黒い膜を張っているだけだ
「はぁ…はぁ 」
相変わらず、空は澄みきった草原の夜みたく色を浮かべ
その真逆に爆音が駅の隅々までを蹂躙している
花火だろうか、僅かに、懐かしい火薬の焼けきった残り香もする
そのときだった、不意に、背中に一筋の‘熱’を感じた
ひよりが作り出した暗闇が途切れた訳ではない
(…まさか )
あり得ない感覚を覚え、寒気がする
嫌な予感と共に、一瞬横目で背中から辿る道の先を見る
すると、駅のほうから白く細い懐中電灯の明かりが
まるでサーチライトのように、小刻みに揺れてこちらに近づいていることに気がついた
轟音と闇のフェイクに屈することなく感ずいた、追っ手の警察官だった
『忘れないで いつだって呼んでるから! 』
(どうする、どうする… )
ここで逃げたら、避けたら
残り約一分のタイムリミットを確実に過ぎてしまう
切羽詰まり、対抗策を考えている間にも、刻々と王手をかける光が近づいてくる
念入りに、丸い光が現実を浮き彫りにさせていく
(……どうすれば )
『重ねた‘理由’を二人で埋める時 約束が交わされる 』
思わず、危機に顔が歪み、青ざめる
とうとう、私の足元に明かりが当たるといったところ、だった
その瞬間、私にかかる光は突如として遮られた
振り向くと、盾となり道に飛び出す一人の女の子の背中があった
アリス服を纏った小学生のような身なりに、純白の肌をした銀髪少女
「ぁ…… 」
それは紛れもない、スイミー、有珠だった
『鏡なんだ 僕ら互いに それぞれのカルマを映す為の 』
「ぐすっ…ひくっ …ニヤリッ 」
大嘘つきは突然泣き崩れ、深夜の夜に一人ぼっちの迷子を演じる
何事かと、すぐ近くを捜索していた警察官が何も知らずに歩み寄る
おどおどと一言二言何かを話し、瞳に涙をたっぷり溜めて、有珠は弱々しく立ち上がる
キャラ設定を見事に被りきり、そして、まんまと騙した警察官に優しく手を引かれ、交番がある駅のほうへ引き返していく
その後ろ姿には、警察官にバレないよう、こっそりと私に見せつけるように小さな右手が差し出されていた
開いた小さな手のひらの中には
‘先っぽの割れたピック’が入っていた
「……ッ! 」
それは勲章のように、有珠自身のカルマの勝利を物語っていた
――僕は逃げなったぞ、勝ったぞ
――こんな奴には邪魔なんかさせないから
―次は、ゆりの番なんだからな
そしてそれは、私を守りきり、夢を繋ぎ止め、役目を終えて離れていった
私の残された熱い一分へ、カルマへの起爆剤を託して
(ありがとう有珠、ちゃんと繋がったよ )
『汚れた手と手で触り合って 形が解る 』
(絶対っ、勝利を持ち帰るから! )
絶体絶命のピンチを、つぎはぎだらけの仲間の能力に救われ、私はしゃきりと前を向き直す
アマリリスを深く構え、ウィッチを捉える
「……ぇ」
しかし、その後、すぐに私は目先の異変に気がついた
ウィッチが、目の前のどこにもいなかったんだ
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