「おかえりなさい ゆりちゃん」
長い長い夜の後に来た幸せは、こんなにも正直に胸を癒した
「ひより… 」
たった何日ぶりなのに、その声は誰より優しく、物凄く久しぶりに感じて
でもその中で、確かに変わらないものはちゃんとあって
いつも部室に一番乗りで迎えてくれる、一生忘れられそうにない穏やかな包容がそこには待っていた
「ひより、本当に…‘諦めないでくれて’ありがとう…ッ 」
奥歯で涙を噛み込んで、けれど笑顔の両脇からは抑えきれずぽろぽろと滴がこぼれていた
私は、ひよりと再会した
カーディガンを着ていない、眼鏡も外したウィザードの姿のひよりが
カウンターの奥、奏がいつも籠もっていた場所でパソコンをいじっていたのだった
カウンターから出て、ひよりは私の前に立った
私は腕を伸ばそうとした、けれどひよりを抱きしめたりは出来ない
その事を思い出し、サッと…手を引っ込める
肌を合わせる事は出来ない少女なんだ
でも、それでも
(――ッ! )
ひよりは、私を抱きしめたんだ
きつくきつく、痛く抱きしめてくれたんだ
「ゆりちゃん、本当にお疲れ様でした、おかえりなさい 」
一秒でも深く、本当に久しぶりに触れた愛しい体温だった
「ひより……ッ 」
鼻水はしつこく唇を濡らして、まだ熱い頬の熱をひよりの胸に押しつけた
そして、ひよりは私に見せてくれた
携帯電話のアドレス帳にしっかりと刻まれた
その‘伊藤拓未’という名の、カルマへの勝利の証を――
もう一度だけ、言います
私は、ひよりと再会しました
***
「……おかえり…」
ボソッと、どこからともなく黒いオーラを纏った奏がお店の奥から顔を出した
「ただいま、奏も色々ありがとう 」
奏は瞳を泳がせて、感情のない顔でこくりと頷いた
仏頂面のこの子の引き立てのおかげで、実に私達は影で救われた
あの公園のベンチで、寄り添ってずっとずっと泣きながら食べたシナモンロールの味は今でも忘れない
そっと、私はカバンからウィッチコートを取り、差し出した
「ちゃんと、やり遂げたよ 」
あれからここまで頑張って、最後まで諦めなかったよ
そう、コートの上にしっかり添えた
奏はコートを両手で受け取り、薄い生地のそれを大事に大事に、胸に抱いた
少しだけ、ほんのちょっぴりだけ、視線をコートに落としていた口元が微笑んだ気がした
「ほんじゃ ゆりっ あたしは最後の後始末があるから 行ってくるさよ 」
「ぇ、後始末って? まだ何かあるの? 」
「おうっ、でも大丈夫さよ、すぐ帰ってくるからさ 」
そうニッコリ言い残し、灯はまた扉を開けて闇に舞い戻る
後には、あまりに灯らしくない無垢で楽しげな足音だけが、外から無防備に響いていた
***
ほどなくして、灯は言葉通りすぐに帰ってきた
一旦引いた汗をまたダラダラとまとわりつかせて、はにかみ笑いを浮かべてドアを開けた
「はぁ…はぁ はい、奏 」
磨り減った薄い底のローファーを鳴らして、そのまま奏の前へ歩き‘それ’を差し出す
ウィッチコートと
べたべたのガムテープ跡がついた‘携帯電話’だった
「…はぁはぁ アリガトな、こいつのおかげで、あたしらは舞台に立てた 」
フルマラソン後のような息の切らし方のまま、灯は感謝の表情を浮かべる
「………」
奏は黙り込んだまま、右手の中で汚れた携帯を満足げに握りしめていた
………
それから、三十分程の時間が経過した
ひよりはカーディガンと眼鏡を身につけ、パソコンをいじっている
灯はテーブル席に
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