夜明けに続く澄んだ夜空の元、街を見下ろす丘を四人のシルエットが並んで歩く
疲れきった身体に休息を渡すように、物音一つない深い夜は、しっとりと肌に呼吸を合わせるのだった
あれだけパトカーのうめき声を放っていた駅も、現在は表面的には静寂を取り戻しつつあるように見受られた
午前二時過ぎ、最後の夏の誘惑に、私達は昔のように滲み出る幸せを噛みしめながら帰り道を下った
***
月からの青白い光が開け放たれた道路に注ぐ
その横では不規則にわさわさと枝葉がなびき
今日一日の功績を褒め称えるように、桃の香りの夜風が袖口に吹き下ろす
身体がうずいて、汗まみれの肌に恐らく今年最後の、夏の衝動に似た感情が打ち寄せていた
「やっぱり奏にサンドイッチでも作ってもらえば良かったなー 」
少しだけゆったりな足音のオーケストラと共に、ふと灯の言葉が空腹音とセットで宙に流れる
「仕方ないですよ、深夜バスの時間がありますから 」
「しょぼーんだ 」
すっからかんのお腹を押さえて灯がうなだれる
「サンドイッチは無いですが、あめ玉ならあるですよー 」
ギターを背負う有珠が、すかさずカバンからごそごそと四つのあめ玉を取り出した
「おっ!、ラッキー あたしメロン味ー 」
言い終わる前に灯が手に取る
「有珠ちゃんありがとうございます、私はブドウ味をいただきますね 」
ひよりは礼儀正しく、了解を得て頂いた
(……… )
小さな手のひらに残った二つの味は
イチゴ味と、はっか味だった
私ははっかがドロップの中でも一番嫌いな味だ
「ゆりはどれにするにゃうー? 好きなほうをどうぞなのですー」
よどみのない眩しい笑顔で有珠が手を差し出す
「うん、ありがとう 」
だからね、私は‘はっか’を選んだ
***
「…なんかさぁ、こういうの 良くね?」
不意に、坂の中盤辺りで、灯が空をボーッと眺めながら呟いた
前では、少し坂の下で有珠がぴょんぴょこ跳ねて星を掴もうと奮闘している
その横にひよりが付き添い、くすりと笑っている
「そうだね、なんか…いい 」
何もかも忘れて、私も同じ星を見上げて無心になって口ずさんだ
まぶたを閉じると、少しだけ忘れていた眠気の心地よさがやってきて、秋の気配を含んだ外気がスカートの端を撫でた
ほんのり口の中で溶けたはっかの液体を、喉に飲み込んで味わう
喉がスースー爽やかになって、不思議なことに、今まで抱いてきた嫌いな味はどこにもなかった
絵の具に欲しいくらいの空の色と、喉の爽快さに、ほんのちょっぴり季節の終わりを含んだ笑みがこぼれた
スイミー作戦の帰り道とあめ玉のときとは違う
いい意味で、私達はこの一夏で生まれ変わり、成長して、大人に近づいた
左手首に包帯を巻いた栗色の髪の女子高生は、外側車線のガードレールから、背伸びをして街を見つめ
両手指が絆創膏だらけのカーディガンの根暗少女は、虫のささやく雑木林側で、ほのかに酸っぱい香りを愛おしむように吸い
ギターを背負う銀髪の小さな女の子は、地面の白線をまるで線路や綱渡りのように乗って、両手を横に広げて辿っていった
そしてどこにでもいる十五歳の高校生は、そんな右、左、中央の友達を一番後ろから眺め
前に広がる急坂の斜面と、その滑走路から伸びる壮大な夜空と、うっすらちりばめられた街の黄色い明かり
それら今日最後の絶景に
ポケットから取り出した携帯のカメラを向けて、静かにシャッターを切ったのだった
残りひとかけのあめ玉をゆっくり舐めて
それと同じくらいに味わう歩幅で、賑やかにオクターブ
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