物置部屋の前で別れ、そこからは三人だけでハルとの待ち合わせに指定した屋上へ通じる階段を目指した
廊下を道なりに進み、孤立感を漂わせる長い通用口の階段を上る
(そういえば、屋上でも色んな事があったな )
有珠と出会い、有珠のカルマを知り、別れて
覚えているかな?
ふと横の少女を見ると
月の光に照らされて、銀色の髪を揺らして、あの日に感謝を込めるように
有珠はこちらを向いて、ひときわにっこり頬を染めて微笑んでいた
***
ひよりの手によって、大きな鉄製の扉が勢いよく開け放たれる
夜中のプール際のような静寂が流れていた階段
待ちわびかのように、遮断されていた扉から広々と真夜中の屋上に飛び出す
その瞬間、新鮮な空間と共にバッと視界が塗り替えられた
「うわぁ―― 」
思わず、声が出なかった
「ほにゃーっ プラネタリウムみたいなのですー!」
有珠がパタパタと喜びいっぱいに余白を走り出す
境目も妨げもない、もうすぐその手が届く距離に、こぼれ落ちそうな夜空が浴びるようにびっしりと降り注いでいた
「ふふっ、誰もいない屋上は気持ちいいですね 」
ひよりも首を上に向けて長い黒髪をなびかせている
四人貸し切りではもったいないほどの圧倒的なスケールに、澄んだ濃紺色は幻想的に浮かんでいた
見える星も数えきれないほど多く、ぐるぐる回って見渡しても日だまり喫茶店から見た夜空に匹敵するくらいだ
(すごい… )
音もなく一面輝き続けるそれに、凝視した瞳が吸い込まれそうになる
(本当に、来てよかった )
たまらず、背中が汚れるのもお構い無しに、私は何もないコンクリートに両手を広げて寝そべった
夜の冷気によってひんやりした地面に太ももを冷やさせて、更に気持ち良さと解放感がプラスする
精一杯今を生きている実感が、たっぷり吸った夜の爽やかな空気と一緒に胸に溢れてくる
最高に満たされた幸せと感動に浸った
腕を伸ばして、広い広い空に美弦の携帯をかざしてみる
「ハル、見えてる? 」
見えてるわけない、だけど、そう言わずにはいられなかった
そして、ハルに怒られてもいい覚悟で
そっと、私は美弦の携帯と私の携帯を赤外線で‘アドレス交換’をさせた
携帯は空にゆっくりと弧を描きながら、兄以外の名を初めて刻んだのだった
………
そんな風にして、少しだけ夜も更けた
ひよりは時間も忘れて、変わらず立って首を空に向けている
有珠は一番端まで走って、フェンスを両手で握り
明るい駅のほうにつれて白色に薄くなっている空の根っこを見ていた
まさにこの上なく幸せな時間だった
私達の最後の夜にふさわしい青春の香りと色で満ちていた
――そのときだった
静けさなどお構い無しに、階段に通じる扉がド派手に巨大な音を響かせた
(――っ!? 」
心臓が止まるほどの衝撃音に振り向くと、同時にリーダーの帰還を演出していた
「さぁッ、始めようか!‘天体観測’」
かと思えば、灯は早速また突拍子もないことを汗を弾いて叫んでいた
「灯 背中のそれなに?? 」
無意識に声を出してしまった
まったく、またも驚かせされてしまった
なんと灯は口にした通り、その背に‘天体望遠鏡’を担いで帰ってきたのだ
***
「selling day 最後のお祭りだ! 」
「始めるさよ、作戦名! 天(体)観(測)25時4点論理! 」
熱のこもった声が夜空に鳴り響く
「えっと灯ちゃん 一体それはどこから? 」
皆の思っていた疑問をひよりは第一に聞いた
「前に物置状態だった部室から、さっ
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