第67話

虚ろな視界を開くと、そこはすでに駅外れに立つ多摩中央警察署の取調室の中だった

(そうか…私は捕まったんだ )

やに臭くて籠りきった不快な環境が充満している
安そうな灰色の机に細く固いイス、窓は背中側に一つ小さく取り付けられているだけだった

退路を完全に断たれた空間、太陽さえ遮断する何一つ残されていない暗い絶望の底

私には、すでに牢獄と大して変わらなかった

(…皆 どうしてるかな、大丈夫かな… )

灯はきっと大丈夫だろう

でもひよりは触られたら、有珠は過去の話をえぐられたら
奏は両親に真実を見つかったら

…またカルマがやって来てしまう
酸素の薄い重苦しい空気が罪を責め立てる

覚悟していたはずの結末なのに

恐ろしくて堪らなかった、朽ちていく世界の終わりに、自分がこんなにも小さな存在だと思い知る

――ガチャッ

そのときだった、目の前の頑丈な扉が開いた
くったりとしたスーツを着込む少し大柄の中年の男と、帽子を深く被った警察官が入ってきた

肌の色は衰え始め、歯は汚れていた
お腹には肉を蓄え、白髪を交えた少し強面の、いかにもドラマに出てきそうな手強そうな男

その大人は私の前に浅く座り、机の上に両手のひらを組んで、淡々と仕事を始めた

「全く、君みたいな普通の高校生が‘ウィッチ’だったとはな 」

その第一声に耳を疑った

そうだった、はたからこれは事情聴取などではなかった

私にかけられた容疑は

‘連続通り魔犯’だった

「……ッ! わ、私はウィッチじゃありません 」
思わず声を張り上げてしまった

これではまさに本物が逃げる為に否定しているようだ

「違うと言われても、君の身体は人より遥かに冷たく、現にあの喫茶店からはウィッチが使ったと思われる黒いコートが見つかっている 他にも証拠は山ほどある」

前の大人はしたたかに私をじっと睨み、社会にもまれて光を失った瞳は、証拠を次々に突き付けた

駅のラジカセの買った購入場所の履歴、監視カメラに映っていた黒コートの姿、目撃証言、部室のパソコンから見つかったクラックの痕跡

「…違うんです 」
とても、逃れられそうになかった
背中を丸めて、私は顔を髪で伏せて俯いた

「じゃあ何故昨日の深夜、駅前であんなことをした? どうせまた人を斬ろうとしたんだろ? …まったく、それをこんな子どもの仲間内でしていたなんて、末恐ろしいよ 」

ぼやくように語り、前の大人は小さく癖のような舌打ちをして続けた

「君たちのした くだらない犯罪や遊びのせいで、どれだけの人が迷惑を受け、どれだけの人が責任を取ってやめたと思う? 」

「………それは 」
それは、確かに実際の事だった
そこに関しては、間違った事は何一つ言ってはいなかった

「挙げ句の果てには通り魔だけじゃ済まず、クラックまでも繰り返す始末だ 」

「警察内のパソコンにクラックし、駅に爆音を鳴らし、停電にまでさせた 」

「君たちの好き勝手に行ったことはな‘全部犯罪’なんだよ ウィッチ」

「……… 」
とても言い返せなかった

「それにしても、誰か一人くらい止めるだろうに、良い事と悪い事くらいもう高校生ならわかるだろ 世間知らずもいいとこだ 」

(…! )
呆れたように男は罵った、罵って冷ややかに見下した

「何がわかる…」

「なに? 」

思わず、私は心の内を見せてしまった、国家に歯向かってしまった

「お前達に私達の何がわかる! 」
気がついたときには、叫んでいた

込み上げてきた感情を震わせて、自分とは思えないほど目を見開いて訴えかけ
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まろやか投稿小説 Ver1.30