-α2-
「うぉぉぉっ!?」
演劇部の部室で惰眠を貪っていた俺、岡崎朋也はあんまりな悪夢に飛び起きた。
「はぁ…」
思わず溜め息をつく俺。
なんだって俺が春原なんかと…ん?
「なんだこれ」
耳にイヤホンが…なんでイヤホンなんかしてるんだ俺は?
「あー!やっと起きたのねあんた」
やって来たのは部長より部長らしいと評判の杏だった。
「あぁ今起き…やっとってなんだ?」
今日は部活が休みで、ここには内緒で寝にきたはずなんだが。
「さっき朋也を探してて、寝てるの見たのよ」
「そうか。なんか用か?」
「あたしはないわ。美魚が探してたのよ」
「美魚?…西園か」
「えぇ、ってあんた大丈夫なの?凄い汗…」
言いながら杏はハンカチを取り出して俺の額に当てた。
「ガキじゃないんだからやめてくれ」
逃げようとする俺だが…
「うるさい。ほら、じっとしてなさいよ」
と、半ば無理矢理汗を拭かれた。
「これでよし。帰ったらお風呂浴びるのよ。寝汗びっしょりじゃない」
「お前は親かよ…夢見が悪かったんだ」
言いながら確かめると、確かに結構な汗をかいていた。
「ふーん。ねぇ、あんた歌でも聞いてたの?」
イヤホンを見ながら杏が尋ねてくるが
「いや、これ俺のじゃないんだ。起きたらあったんだよ」
「は?どういうこと?」
「俺が聞きたい」
謎だらけのイヤホン。杏の悪戯かと思ったんだが違うのか…
「ふむ…じゃあ中身を聞いてみましょうか?」
言って杏は俺の隣に腰を下ろす。
「マジか?」
「マジよ。ほら、片方寄越しなさい」
ずいっと差し出される杏の手。
「はぁ…はいはい」
強引な杏に促され、俺は杏の手にイヤホンを載せた。
「えっちなのだったりして」
杏がにんまりと笑いからかってくる。
「アホか…再生するぞ」
「うん」
…正直に言えば、まだそっちの方が良かったかもしれない。
「「…」」
聞きながらうなぎ下がりな俺達のテンション。
中身は所謂…BL…ボーイズラブと呼ばれるジャンルの本を朗読したものだった。
「すまん…限界だ」
「あはは…あたしも」
俺達は二人揃ってイヤホンを外した。
「…[おかさき]と[はるはら]って明らかに俺とあの馬鹿だよな?」
「でしょうね。うわ、鳥肌が立ってきちゃった」
余程肌に合わなかったのか寒そうにする杏。
「女はみんなこういうの好きだって聞いた気がしたんだが、お前はダメなんだな」
意外かもしれない。
「嫌いな女子だってそりゃいるわよ。でもあたしこういうのそのものは嫌いじゃないわよ?」
「は?なら…」
「モデルがあんた達だから嫌なのよ」
「…なるほどな」
確かに、俺達をよく知る人物ならキャラが違いすぎて合わないか。
「ところで途中に名前が出た杏(あんず)って」
「お前だろうな」
杏(あんず)…生徒会長(女)を付け狙う女。
「あんたがあたしをバイだなんて言うからよっ」
「悪かった。まさかこんな気分を味わう羽目になるとは思わなかったんだ」
偽りなく俺は杏に頭を下げていた。耐性がない身にこれはつらすぎる。
「…わかればいいわ。ねぇ、これって」
「間違いなく西園だ」
「そうよね…」
俺は西園とはそこまで親しくはないのだが、こういった趣味があるのは聞き及んでいた。
「悪夢の礼をしないといけないな…」
「悪夢って…あんた」
「察してくれ…俺は言いたくない」
「…わかった」
自分ではわからないが今の俺は凄い顔をしているようで、杏はからかう事なく引き下がった。
「取り敢えず棗に聞いてみるか」
「恭介に?」
「あぁ。直枝だと後々可哀相なことになるかもしれないからな」
女装とか女装とか女装
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