暗い世界。
黒い部屋。
まるで典型的な引きこもりの部屋みたい。
テストで些細なミス。
信じられない点数。
周囲からの期待を裏切ってしまったこと。
そもそもの周囲からの重圧。
あたしは…コワレタ。
―
「愛…」
白いベッドに眠っている女の子。
俺は息を整えて、彼女に近寄った。
「愛、きたよ」
俺はベッド横の椅子に腰掛けた。
あ、土産忘れたな…。
「悪いな、愛。気の利かない仲間でさ」
俺は罪悪感を無視し、布団から愛の手を出すとそっと握った。
―
学校に行けなくなった。
話には聞いていた自律神経失調症というのになったみたい。
最初はなんとか頑張って学校へ行って…
でも周囲の視線から悪意を感じる気がして、あたしが保健室の住人になるのに時間はかからなかった。
気がつけば、家から出ることが出来なくなって…
気がつけば、部屋から出ることすらも苦痛になっていた。
家族はみんながあたしの心配をしてくれた。
最初は仮病だと思っていた父さんすら、あたしの症状を見て顔を青ざめさせて…
みんながあたしの病気のことを調べ、
みんながあたしを外界から守ってくれた。
その愛情すら…あたしには重かった。
―
「参ったな…リアルの女の子と話すようなネタはないんだけどな」
情けない自分自身に内心苦笑しながら、愛の顔を見た。
「…」
この顔、見覚えが…!
「あの時の!」
愛の顔つきは夢の中で見るものと違った。
夢の中ではあのお姉さんみたいな態度だった愛だけど…
「俺達…もう会っていたんだな」
愛は…先日病院ですれ違った女の子だった。
―
いつだったか…前に病院へ行った日。
その日に見た夢はあたしに衝撃を与えた。
自分と同じ苦しみを持つ男の子。
大空飛翔なんて芸能人みたいな名前で。
愉快な人で。
気がついたら、あたしは眠ることを楽しみにしていた。
惹かれているのかと聞かれたら…正直、わからない。
キスしよ、なんて言ったりしたけど…夢だと思って大胆になりすぎた。
彼は夢の住人。
現実に存在しない。
それを確認するのが怖くて…あたしはあの日家を出ることが出来なかった。
そして…
―
「なぁ、愛…夢の中では沢山話したよな」
愉快なこと、些細なこと、悩み…なんでも話すことが出来た。
「知ってるか?RGB…赤と緑と青、全部混ぜるとどうなるか」
あの部屋の色彩は三原色だった。
そして、愛の心情に合わせるように黒くなっていった部屋。
「黒になるんだ」
―
あたしは病院へ行く直前に倒れた。
そこから起きた記憶はないから、多分家か病院で眠り続けているはず。
…飛翔に会うのがつらかった。
あんなに楽しくお喋り出来たのに…
なんでも話せたのに…
あたしは夢の中でまであの症状に苦しめられることになった。
…一人になりたかった。
…消えてしまいたかった。
『俺、愛の家に行く』
…何を言っているんだろうと思った。
あたし達は満足に外も出歩けないのに…
そもそも…大空飛翔なんて実在するかもわからない。
なのに…あたしは住所を教えていた。
いくつものネガティブがあたしを襲う。
来るはずがない。
飛翔なんていない。
それでも…あたしは…飛翔に…
「かける…っ、会いたい…会いたいよ…声が…聞きたいよ…ぇ?」
その時、あたしは見た。
黒以外の色を失った世界に差し込む一条の光を。
か細く、すぐに消えてしまいそうで、でも決して消えないと思わせる不思議な光を。
―
「でもさ…それだけじゃないんだ。白にもなるんだよ、あの
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