「愛の家族とお医者さん達の見てる前で…キスするぞ」
「きゃぁぁぁぁっ!?」
狸寝入りだったんじゃないかってタイミングだな、おい。
「あ…あれ?…っ!!」
驚いてる驚いてる。
こっちで会うのは初めてだもんな。
「…よぉ、遅かったな」
出来るだけ平静に言おうと思ったんだが、声が震えてしまったのは…俺らしい。
「…レディには…色々…仕度が…仕度が…っ…ぁ」
ボロボロ泣いて、もはや言葉にならない愛。
そんな愛の、ずっと繋いでいた手に力を込める。
『大丈夫』
『俺が一緒にいる』
「…待ち合わせ、遅刻して、ごめんね…っ」
夢とは違うしおらしい態度…この姿が本当の愛なんだ。
「ついさっき来たばっかりだから…気にするな」
愛の素を見て、それでもちょっと格好つけたいのは男の見栄だ。
「しかし…傷ついたな」
「え?」
「俺とのキスは悲鳴あげるくらいに嫌なのか?」
「え?あ…ちが…」
「くく…あははっ!悪い悪い、冗談だよ」
「な…もぅ!」
「そうだ、起きたんならお医者さんを呼ばないといけないな」
言って俺はナースコールを押した。
「それと、随分待たせてくれたからな。お詫びとご褒美が欲しいんだが」
「う…なに?」
「簡単さ」
俺は愛の顔を正面に捕らえ…
「か、かけ…る?」
「目を閉じて」
「う、うん…」
愛がそっと目を閉じる。
そんな愛に俺は…
ビシッ!
「いたぁぁっ!?」
デコピンをぶちかましてやった。
「酷いよぉ…」
愛は赤くなった額を手でおさえている。
「悪い悪い、跡になってないか見せてみろよ」
「デコピンしない?」
「しないしない」
デコピンは。
「ん…はい」
愛が額から手を離すと、そこはほんのり赤くなっていた。
「痛くなくなるようにおまじないをしてやるよ」
「おまじな…っ!?」
俺は愛の額にそっと唇で触れた。
「な…な!?」
「…これで、全部チャラだからな」
猛烈に恥ずかしい…。
「…だめ」
「え?」
「チャラになんか出来ないよ」
「お…」
だめと言われて驚いていた俺は、愛に頭を捕まれても抵抗出来ず、そのまま引き寄せられ…
「海野さん!」
「愛!」
「きゃぁぁぁぁっ!!」
「ぐぇっ!」
お医者さんとお姉さんの乱入で驚いた愛に俺は突き飛ばされた。
最後の最後でカッコつかないのが…俺達らしいのかもしれない。
だって、俺達は『普通』じゃないんだから。
―
ちなみに
『光の三原色は赤青緑で白になるけど、色の三原色は赤青黄で黒になるのよ』
いつから聞いていたのか愛のお姉さんに突っ込まれて俺達は赤面することになった。
それと
『あのタイミングで乱入したのはわざとよ』
だそうだ。
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