彼は問わない。
答えは出ていた。
秒速三万キロメートルの風は彼の想いに弾かれる。
周りを包む暗やみと対象に、目の前には光があった。
そこへ向かって、懸命に足を蹴る。走る。走る。
体が崩れかけても尚、走る。
彼は後ろを見ない。
答えは出ていた。
後ろを走るのは、想起する別の彼の姿なのだ。
首の無い彼が笑ったようだ。
それは崩れてゆく自分への自嘲的な笑みか。
――死んだのは自分だ。
答えが出た、自覚した。
――考えるのは頭じゃない何処かでするんだ。
当然が打ち崩される。自分の存在が確かな理由だった。
――確かに頭は痛いけども。
そんな頭は無いけども、と彼は付け加える。
――みんなが、彼女が泣いている。
それは、と彼は続ける。
――自分が死んだからだ。
自覚がある。
答えがある。
対して、体はほとんど無い。
光を掴む手も無い。
それでも、彼は走る。
走る体はない。
ならば、彼の想いが走る。
走り続ける。
理由は彼女の願いだったからに他ならない。
確かに、彼は走るのが好きだ。だが、今ではその好きが彼女の願いなのだ。
彼が光と呼ぶ、自身の恋人に届かなくとも彼は走り続ける。
――自分の好きなようならば。
彼は、最後に笑った気がした。
――走り続ける。君のために。
――君の元へ。
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