俺――浅川和行がそのブルーレイを見たのは、そう8月1日のことだ。
あの日、俺たちは大学の夏休みを利用して山間のペンションに泊まりに来ていた。
美沙が商店街の福引で温泉つきペンション1泊2日を当てたというので、俺、竜司、美沙のいつものメンバーで行くことになったのだ。
幼馴染3人ということで気楽な小旅行だった。
3人でカレー作り、男同士の裸の語り合い(竜司と二人で露天風呂に行っただけ)、温泉後の美沙も交えた卓球バトルコロシアム。
ペンションでの定番は押さえたつもりだ。
そんな折、俺はいつも見ていたアニメをそのペンションで予約録画したわけだ。
どうしてわざわざ録画したかって?
そりゃ美沙のヤツが
「は!? 旅行先でアニメ!? ありえない。却下」
その鶴の一声で禁止されちまったのだ。
けど「こいつのアニメ好きは今に始まったことじゃないだろ。録画くらいなら見逃してやれ」という竜司の理解ある言葉で無事録画だけはできた。さすが我が親友。
ちなみに深夜アニメだったのだが、その時間帯に美沙は既に爆睡していたことも付け加えておこう。
余談はさておき、問題はペンションから帰った後だ。
俺は家のパソコンで、ブルーレイに録画してきたアニメを再生した。
……だが。
そこに映されたのはいつもの見慣れたアニメじゃなかった。
井戸だ。
古びた井戸だ。
井戸から手が伸びる。白い手。女の手。
目が離せなかった。目が離れなかった。
暗転。
画面に一字、一字文字が浮かぶ。
『一週間後、お前は死ぬ』
ビデオは、終わった。
沈黙。
冗談だろ……?
これ…どこかで聞いたぞ…?
かなり昔のふざけたゴールデンの特番だ。都市伝説がどうのこうの、そんな番組。
――見れば死ぬビデオ――
まさかな。まさかだろ。あるわけねぇだろ……?
だが、今の映像から俺は本能的に感じ取っていた。
……『死』そのものを。
途端に電話。
鳴り続ける。
鳴り続ける。
取るしかなかった。
水が落ちるような音。うめき声。
俺はすぐさまその電話を切った。
「「はぁ〜っ?」」
美沙のバイト先である喫茶ファミーユの4人掛けアンティークテーブル。
そこで幼馴染二人の素っ頓狂な声がハモった。
まるでネッシー目撃談を聞いたときのような反応だが、
「間違いない。あれは……呪いのブルーレイだった」
話している俺は至ってマジだ。
きょとんとしていた美沙だったがその口元が徐々にヒクヒクしていき、終いには
「あ〜っはっはっは! 呪いのブルーレイだってっ! あははははっ! 呪いも時代とともに最新機材使うのねっ! あはは…ぐっ ゴホッゴホッ! む、むせ、むせたっ! 水っ!!」
ああ、わかってた、わかってたよ!
コイツがこういう反応するのは想定済みだった!
気分で幽霊を信じたり信じなかったりするような気まぐれなヤツなのだ。
っつーか、バイト上がりとはいえ店内で爆笑するなよ。
隣で爆笑するもんだから、美沙の揺れまくるポニーテールが腕に当たってなんともこそばゆいだろ。
当然ながら俺が相談したかったのは美沙ではない。
「ケーキ気管に入った…っ」とむせている美沙の様子にため息をつきながら、俺の向かいでブラックコーヒーを静かに口に運んでいるヤツに目を移した。
「竜司、どう思う? お前なら何かわかったりするんじゃないか?」
「呪いか」
――高山竜司。大学2年。
身長は180センチ、パーマがかかった髪に鋭い目つき。耳には小さなグリーンのピアスが光っている。Tシャツを着流しストレートのジーンズを履いているだけなのに無駄にクールに見える。
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