その優しい笑顔に俺の背筋は凍りついた。
待て、待てよ。なんで笑顔でそんなことを言えるんだよ……。
コイツは俺を殺すことを何とも思っていない。
今から逃げられるか?
無理だ。座ったせいで、咄嗟に逃げるという行動にも出にくい。
立ち上がろうとした瞬間に殺されるのがオチだ。
完全にコイツの術中にハマったというワケだ。クソッ!
「――そこでお聞きします」
その温かくも冷酷な声に全身が硬直した。
フル回転で逃げ道を模索していた思考が回転を止めた。
女の漆黒の目が真っ直ぐに俺を見つめていた。
「私は……」
死神が、笑みを浮かべた顔をゆっくりと傾けた。
「殺すと言われても良くわからなくて……あの、私はどうやって貴方を殺せばいいのですか?」
「知るかよ!?」
ああっ!!
自分のツッコミ属性が憎いっ!!
こんな時までツッコんでしまう自分が憎いっ!!
「ご、ごめんなさい! 驚かせるつもりはなくて……」
「驚かせる気満々の登場だったろ!」
女が困った顔で首を傾けた。
「あの……そもそもなんで私は貴方を殺さなければならないのでしょうか?」
「そこ聞くのかよっ!? なんでウチ来たんだよ!?」
「ご、ごめんなさいっ」
「……」
正面にはマジで困っている変な人(?)が一名。
おい!? おいおいおい!?
こいつはマジで一体何をしに出てきたんだよ!?
「私、気付いたらあの井戸にいて……最初の記憶は『貴方を殺せ』ということだけで他は本当に何もわからなくて……」
シュンとしてしまった目の前の大和撫子。
「その後は光に向かって手を伸ばしたのですが……」
「出られずに苦戦した、と」
「……(こくん)」
しょんぼりと頷いた。
「出てきたのはいいけど、何をすればいいかよくわからないわけか」
「……(こくん)」
しょんぼりと頷いた。
「お前まさか……何をしたらいいかよくわからんから、俺に「なぜ私が来たかわかっているでしょう?」とかいうわかった風な質問をして俺の出方を伺ったのか」
「……」
「……」
「……(こくん)」
しょんぼりと頷きやがった。
「お前なぁっ!」
「きゃっ!?」
そんな身を縮ませられると俺のほうが悪いことしているみたいだろ。
「ぐぐぐ……こほん。あー、一つ聞くが、俺を座らせたのは策略――」
「立ち話もなんでしたので……」
「…………だよな」
「はい」
深読みしすぎた自分が恥ずかしい。
「私、どうしたらいいんでしょう……」
それは俺のセリフだろ。
どうしようかと思いあぐねていると目の前の女が本格的にうなだれ始めた。
どうしようか。
なんだか俺が悪いことをしている気分に苛(さいな)まれてきた。
「とりあえず目的は俺を殺すこと……なんだよな?」
「そうみたいです……」
「やっぱり包丁で一突きとかか……?」
なんで俺は提言してるんだっ!?
「包丁……っ!」
その言葉を聞いた途端、女の顔から血の気が引いた。
……血の気が引くのかよ。
「だっ、ダメです! そんなことをしたら血が出てしまいますっ!」
「そりゃ刺したら痛いし血も出るだろうよ……」
――チックタック、チックタック。
静寂と時計の刻む音だけが、部屋の絨毯の上で正座をしている二人の間に流れている。
「……じゃあアレか。それっぽく呪いの言葉とか?」
「はいっ、やってみます!」
「え、嘘嘘ッ! やらなくても――」
できやしないと勝手に思っていたが、まさか瓢箪からコマか!? いやこの場合やぶ蛇か!?
言葉を待たずして女の凛とした目が俺を睨みつける!
俺は思わず正座のまま身構えた!
「ヤメ――」
ビッと伸ばした指が俺の
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