6話


――今居る場所はブリックモールという。
俺たちが住む町にある特大百貨店の一角だ。(よく『エブリデイ、ヤングライフ…』とか何とか曲が流れている)
ショッピングモールなのだが、なんでも中世ヨーロッパの町並み風がコンセプトらしい。
レンガ造りの建物、石畳の歩道。そんな風景が一つの建物の中に再現されている。
若者を中心に人気があり、週末とあらば挙(こぞ)って押しかけてくる。まあ、ウチの町にはここ以外に遊びに行くところがないということも事実だが。
今は学校が夏休み中のため平日でも賑わっている。

俺と竜司、そしてさだこがその中を歩いていた。
……行き交う人誰もが、俺の後ろをついて来るボーイッシュな格好(俺の服なワケだが)の大和撫子がまさか物の怪だとは毛ほども思っちゃいないだろう。
たまに視線が飛んでくるのは、こいつが人間基準で美人の分類、それもかなり上位ランクに入るからだろうなあ。

物の怪さだことの同居のことは……こいつも行くあてがないと困り顔で言うので、まあ、仕方ないから俺の家に居候ということで合意したわけだ。
どう考えても人畜無害。大きな問題はないとは思う。たぶん。
まさかこんな形で同居人が増えちまうとは一昨日までの俺は思いもしなかったぞ。


「――竜司、他になんか必要なものって思い浮かぶか?」
「必要最低限は揃ったろ」
「さだこは他に入用なものは本当にないのか?」
後ろを付いてきているさだこをチラリと目を配る。
「と、特にはっ! 居候する身で物なんて買ってもらってしまうなんて……」
シュンとするさだこ。
「特にはって言われてもなぁ。女の子を泊めるなんて初めてだから何が必要かわかんないんだよなぁ」
「クククっ、今の言葉を美沙あたりに聞かれたらアウトだったな」
「なんであいつの名前が出てくんだよ。っつーか住むのは女の子ってより人外だぞ」

自分が手に持っている袋に目をやる。
そこには歯ブラシやシャンプー、石鹸、それに塗り箸なんてものも入ってる。
もちろん買い物中にさだこの奴に
『何が欲しい?』
なんて聞いたが
『いえっそんなっ! 買っていただくなくとも私は和行さんが使っているので十分ですからっ』
と遠慮の塊みたいな奴だった。
むしろ箸やら石鹸やらは俺と同じものを使われるのはちょっと気まずいわけだが(礼儀というヤツだ)、その辺良くわかってないようである。
あと個人的には包丁コーナーに行ったときは包丁を見ながら「…ククク…」とかいうのを期待してたんだが……。
残念ながらそんな物の怪らしい素振りは一切見せず、終始「なんでこの包丁、穴が開いてるんですか?」というごく普通の質問だった。(切ったものが包丁にくっつき難くなるという生活の知恵を伝授してやった)
気が利くのは案の定竜司だ。
一人暮らしの俺の部屋に足りないもの――食器やコップの準備を提案してくれたわけだ。
大学に入って一人暮らしを始めた時、一人で生活する必要最低限しかなかったからなぁ。
そんなわけでさだこの分を買ったのだが、これが手にかかる重量の80%は占めているに違いない。
要するにかなり重いのだ。

「なあ竜司、荷物持つ気ないか?」
「ねぇな。これっぽっちもねえ。そりゃおまえの仕事だろ」
とてもクールでいらっしゃった。チクショウめ。
「あの」
後ろから透き通った声。
「私の買い物ですので私に持たせてくださいっ!」
「ダメ。ってか無理」
「いえっ! どうか私にっ」
後ろで「和行さん〜っ」と言っているさだこを無視して足を進める。
ちなみにこのやり取りも3回目。
……こいつの細腕じゃ無理だろ。どう考えて
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