6月のある晴れた日の日曜日。
僕は一人で、寮から少し離れたところにある本屋に向かって足を進めていた。
普段は自転車で行くんだけど、今日は趣向を変えて歩きだ。
「……」
あれ?
あの本屋って、こんなに遠かったっけ…?
「…………」
今まで自転車だったからこそ近く感じてただけみたいだ。
「暑い…」
初夏の日差しの下、汗を流しながら歩く。
もう道も半ばまで来ちゃったし、帰るに帰れないし。
「……」
「やっぱり自転車で来れば良かった…」
早くも後悔していた。
刺さるような日差しの下をただひたすらに歩いているときのことだ。
――キッ。
僕の横で自転車が止まった。
「あら、直枝さん」
「あ…笹瀬川さん」
自転車に目を向けると、笹瀬川さんが意外そうな顔をして僕を見ていた。
白の可愛らしいワンピースに麦わら帽子、いかにも余所行きといった感じだ。
普段の体操着の笹瀬川さんからは想像出来ないような『女の子』といった印象を受ける。
…なんて思ってることがバレたら怒られるだろうなあ。
「こんなところで何をしていらっしゃいますの?」
「ちょっと本屋に行こうと思って」
「奇遇ですわね、わたくしもちょうど本屋に向かうところですわ……って、あなた」
呆れた表情が浮かぶ。
「この日差しの中を歩きで行くつもりですの?」
「あはは…いやまあ」
「……」
うわっ!
思いっきりジト目で僕を見てきている!
その目はまるで馬鹿ですわね、とでも言わんばかりだ。
「救いようのない馬鹿ですわね」
ハッキリ言われた!
……まあ、僕自身も馬鹿だったって後悔してるんだけど。
「この暑い中をご苦労ですわね」
「はぁ……あなたを見てるだけでわたくしまで疲れてきますわ…」
「お先しますわね」
「あ、う、うん。気をつけてね」
「心配ご無用ですわ」
走り去る笹瀬川さんの背中を見送る。
――キキーッ。
あ。止まった。
「ああ、もうーっ!!」
「いいから後ろにお乗りなさいっ!!」
「――笹瀬川さんってさ」
「なんですの?」
「世話焼きって言われない?」
「うっさいですわ!!」
笹瀬川さんの自転車(ママチャリ)の後ろの荷台に腰を下ろし風を切る。
さっきとは打って変わって、初夏の日差しを浴びた景色が流れてゆく。
風に乗って心地よい香りが僕を包む。
きっと笹瀬川さんのシャンプーの香りだ。
「…ちょっと直枝さん」
「なに?」
「わたくしの肩にそんなに手を乗せないでくださる?」
「よろしいこと? 指先までと言いましたでしょう!」
「あ、ごめんごめん」
僕の手は笹瀬川さんの肩に掛かっている。
こうしないと僕は二人乗りのバランスがとれないので、無理を言って納得してもらったのだ。
そうしている間に、もう本屋がある街中へと入っていた。
「もう少しで着きますわよ」
「笹瀬川さん、ホントにありがとう」
「はぁ……とことんお人良しな自分に嫌気が差しますわ」
「そこが笹瀬川さんのいいところだと思うよ」
「ンなっ!?」
一瞬自転車がぶれた。
「う、う、う、うっさいですわっっっ!!」
「ななななにをおっしゃいますのっ!!」
「え? 僕、変なこと言ったっけ?」
「〜〜〜〜っ!!」
なぜかスピードが上がる自転車。
「ほ、ホント腹が立ちますわね、あなたといるとっ!!」
「うわわっ! あんまりスピードを上げるとっ!」
「今度はなんですのっ!」
「笹瀬川さんの髪の毛が流れてきて、くすぐったいよ」
「なっ……!!」
「いいい、今すぐ降りなさい降りろーっ!!」
「あ、いや、怒らせるつもりはなかったんだけど…ごめんごめん」
「はぁぁぁ……
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